寺の花ものがたり(33) 野中寺(大阪府羽曳野市)白山茶花=11月下旬~12月前半
江戸時代は戒律を学ぶ道場で、勧学院と呼ばれた。修行僧が起居した比丘寮(びくりょう)の屋根を超えて、1本の山茶花(さざんか)が白い単弁の花をふんだんにつける。樹齢は300年を超える。
枝がうねり合い、交差した部分はこぶ状に一体化している。前住職の野口明真さんはその様を指し、「樹木医によると、珍しいらしい。お染めの執念かねえ」と、冗談交じりに話した。原種に近いという点でも価値のある木らしいが、話はお染に行く。
実は境内に、歌舞伎や浄瑠璃で知られる「お染・久松」の墓がある。油屋の娘と使用人が恋仲になり、心中をとげた物語の主人公である。墓石の表には「宗味信士 妙法信女」、背面には「享保七(1722)年十月七日建之 俗名久松 お染 大坂東掘天王寺屋権右衛門」と刻まれている。
悲恋物語が広く知られるにつれ、山茶花も2人に結びつけられるようになった。「あの世で結ばれたことを示している」と。
樹木医に来てもらったのは、樹勢が急に衰えたことがあったからだ。ある年、花が七分ほど開いては散った。「木はものを言わんから分からんが、それが前兆やった」。翌年、葉の半分が黄色くなった。
樹木医は根を掘った。毛細血管のような細いものも傷つけないように、へらを使って丁寧に。薬を塗り、いい土を入れた。3年がかりだった。その後で、幹などの外科治療をした。
根本から治す手法に、野口さんは感銘した。同時に、胸をなでおろした。「大阪府の天然記念物の木を、私の代で枯らしてはいかん。人間も木も、早期発見早期治療や」。老樹は元気を取り戻した(梶川伸)
◇野中寺◇
大阪府羽曳野市野々上5。0729-53-2248。近鉄藤井寺駅からバスで野々上下車。サザンカの拝観有料。聖徳太子の命を受けた蘇我馬子が造営したと伝えられる。本尊は薬師如来。重文の金銅弥勒(みろく)菩薩は毎月18日に公開。
=2004年12月14日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることも考えられますので、ご了承ください)2015.11.06
更新日時 2015/11/06