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寺の花ものがたり(32) 実光院(京都府左京区)不断桜=11月上旬~12月中旬

2004年11月24日撮影

「9月になると、葉の中に、1つ2つ花を見つけるようになる。葉が落ちてしまうと、次第に花が多くなり、11月に満開になる。12月に入って、寒さで花の量は減るが、春までぽつぽつと咲き続ける。4月には、普通の桜と同じようにパッと満開になる」
 先代住職、天納伝中(あまの・でんちゅう)さんの妻喜美子さんが、不断桜と呼ばれる理由を説明する。桜守に「八重は珍しい」と聞いたが、正式な品種名ははっきりしない。
 庭の中央に1本だけある桜を、紅葉を背景にして眺めた。八重とは言っても、花びらはせいぜい二重だった。花はごく小さく、控えめに開いている。つぼみはさらに小さく、先が桃色に染まり、ちっちゃな黄緑のがくを持っている。何とも愛らしい。
 春はもう少し大きく見えるらしい。花びらの開く角度が大きいからだと言う。
 元は、客殿の南にある庭園「契心園」の池に浮かぶ小さな島に植えられていた。その時は、高さが1メートルあったかどうか。30年ほど前、客殿の西側の庭に移植した。「それから、どんどん大きくなって」。いまは、5メートルほどに成長した。
 西側の庭は、亡くなった先代が自分の手で作り上げた。「庭に1日いても飽きない人だった」。持ち山で切った木を植え、はさみを入れた。借景を生かすため、木は高くしなかった。派手な花は嫌った。山野草は庭のあちこちに入れた。ただし、何の表示もしなかった。「名前を書いたら植物園になる」と言い張って。
 不断桜は寺の象徴でもあるのに、やはり名前は書かれていない。わびさびを大事にした先代の心が受け継がれている。(梶川伸)

◇実光院◇
 京都市左京区大原勝林院町187。075-744-2537。JR京都駅などからバスで大原下車、徒歩15分。拝観有料。仏教儀式音楽の天台声明(しょうみょう)を伝承するために建立された勝林院の子院。本尊は地蔵菩薩。
=2004年12月7日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっていることも考えられます。ご了承ください)2015.11.01

天台声明

更新日時 2015/11/01


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