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寺の花ものがたり(30) 教林坊(滋賀県安土町)紅葉=11月中旬~下旬

2012年12月1日撮影

 客殿(書院)は、ヨシぶきの屋根だった。土蔵もそうだ。ヨシは琵琶湖の水辺を包む。湖国の寺らしい。
 渋いヨシ屋根を、血染め紅葉(もみじ)が彩る。楓(かえで)は100本近い。「古いものは200年以上」。そう言って、住職の廣部光信さんは、江戸時代に書かれた寺の縁起の現代語訳を示した。
 ――もみじの葉をゆする風の音は、天人がこの霊山に遊んで音楽を演奏しているようで――
 近江の寺を愛した白洲正子は「ささやかな寺」と表現し、「興味をひいたのは、慶長時代(1596~1615)の石庭で(中略)いきなり山につづく急勾配に作ってあり」と記した(「かくれ里 石の寺」)。
 そんな名園の寺だが、20年ほど閉められたままだった。廣部さんが「石の寺・教林坊」として公開したのは、今年4月17日である。
 1995年に住職に就いた。無住に近い状態が続き、寺は荒れていた。「ヨシは半分腐って、雨漏りがし、床は一部抜けていた」
 私財を投じ、地元の信者や町の協力を得て、復興した。客殿は全面改修に近かった。本堂の垂木(たるき)は自分で作った。「お金がないから」と言って指差した手作りの柱は、長さが足りず、継ぎ足してあった。「素人仕事で」と笑う。
 周囲の竹林も切り開いた。ただし、竹に囲まれた寺の風情を残しながら。すべてに、「かくれ寺」を意識した手入れだった。
 11月13~26日、土の上に明かりを置く。「紅葉は赤く、竹は白く」。光に浮ぶ庭を、たくさんの人に知ってもらいたい。その一方で、かくれ寺のイメージは失いたくない。難しい調和を求めている。(梶川伸)

◇教林坊◇
 滋賀県近江八幡市安土町石寺1145。0748-46-5400。JR能登川駅からバスで観音正寺口下車、徒歩30分(便少ない)。安土駅からタクシー約10分。拝観料有料。6月~9月、12月11日~3月31日は土日祝のみ。ライトアップ時は別料金。
=2004年11月23日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性があります。ご了承ください)2015.10.17

白洲正子 石の寺

更新日時 2015/10/17


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