心にしみる一言(43) 得意料理は口の悪いこと
◇一言◇
得意料理は口の悪いこと
◇本文
しばしば飲みに行った奈良の店の大将、岡田吉弘さんは、こう言ってはばからなかった。
奈良・吉野の山奥によく入り込んだ。「四季がよくわかるから」と。渓流が好きで、自分が釣った魚や山菜が、料理として出てきた。
しかし、口は悪い。アユを調理しながら、「縄張りはアユが作るのに、人間の方が縄張りを作っている」。解禁日の陣取り合戦のことだ。高価なサオが立ち並ぶ様子を、「1億円の林が立っている」。さらに、養殖で闘争心を忘れて群れるアユまでやり玉にあげ、「メダカの学校」と言った。
大将が亡くなって2年ほどになる。最後に訪れた時に出たのは、ウドの皮のキンピラ、オオバギボシのゴマあえ、ワサビの葉のつくだ煮、フキノトウのしょうゆ漬け。春まだ浅い日だった。(梶川伸)=2002年3月23日の毎日新聞2015.10.10
更新日時 2015/10/10