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寺の花ものがたり(22)仏隆寺(奈良県宇陀市)彼岸花=9月中旬~下旬

2004年9月9日撮影

 棚田に稲が垂れている。オクラの黄色い花が咲き、ナスが濃い紫のつやを見せる。のどかな秋の道が行きついた所に、寺はある。
 幅2メートルに満たない石段が待つ。やや古色を帯びて、山門まで200段ほど続く。両側に真っ赤な彼岸花が燃え、炎は山の斜面へと広がっている。
 「親しい友人を亡くした北海道の女の方が寺を訪れ、まるで天国への石段だと感じたそうです。それ以来、毎年この時期に来られます」。石段の途中で遭った鈴木隆明住職の妻田鶴子さんは話した。
 「草刈りが1番」。彼岸花を育てるポイントだと断言する。きっかけもそうだった。子どもが小さい時、歩きやすいように草を刈った。すると、彼岸花の多さの驚いた。それまでは、背の高い夏草の覆われていて、気がつかなかった。30年も前のことになる。
 それからは、草刈りに忙しい。5月から8月にかけて、月に1度ずつの大仕事だ。刈った草は土の戻して堆肥にする。「(彼岸花の)足元をきれいにする」と表現する。いまは10万本が、空中にじゅうたんを敷く。「1株も植えたことはない」のだが。
 写真家の故・入江泰吉さんが取り上げてから、広く知られるようになった。人が来れば、手入れはおろそかにできず、愛着もわく。
 「子どものころ、彼岸花のそばは、こうして通ったのに」と言って、両手を後で組んだ。根に毒性があるので、「手腐れ花」と教えられたからだ。
 出遭った時、田鶴子さんは頭のタオルをかぶり、石段をはき清めていた。赤く縁取られた石段を登る参拝客のために。(梶川伸)

◇仏隆寺◇
 奈良県宇陀市榛原赤埴1684。0745-82-2714。近鉄榛原駅から上内牧行きバスで高井下車、徒歩30分。入山料有料。堅恵大徳が建立。空海と入唐し、皇帝から茶の種子と茶臼を拝受した。本尊は十一面観音。古木・千年桜も名高い。
=2004年9月14日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性があります。ご了承ください)2015.08.06

更新日時 2015/08/06


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