心にしみる一言(31) 気がついてみたら、大学を中退して遍路になっていた
◇一言◇
気がついてみたら、大学を中退して遍路になっていた
◇本文◇
四国八十八カ所の道筋には、歩き遍路のために休憩所を設けているところがある。その1つに寄った折、備えつけの落書き帳を繰った。1晩の宿を借りた男性の文章に、目がくぎづけになった。
両親が離婚し、知らないうちに妊娠して再婚していた。憎しみが芽生え、遍路に出たという。悩みの吐露に引き込まれ、失礼ながら読み進んだ。
所持金は1000円。「食欲に負けて窃盗をはたらき、警察に連れていかれ、早々に不偸(ちゅう)盗を犯した」。不偸盗は、寺で唱える「十善戒」にある。盗みを戒め、十善戒の中では不殺生の次。苦しみと心の混乱が、どれほど大きかったことか。
歩き続けて「心も強くなり仲間もできた」。結びは「今考えているのは、将来何になるかと、親を許せるかということ」。21歳と記してあった。(梶川伸)=2001年12月20日の毎日新聞に掲載したものを再掲載2015.06.27
更新日時 2015/06/27