寺の花ものがたり(12) 廬山寺(京都市上京区)桔梗=6月下旬~9月上旬
◎風情増す苔と青紫の花千株
紫式部がこのあたりに住んでいたという。文学博士、角田文衞(つのだ・ぶんえい)さんの考証による。1965年、境内に顕彰碑ができた。
紫式部の居宅では、鴨川の水を引き、草花を育てていたらしい。その中に、桔梗(ききょう)もあったようだ。顕彰碑の建立に合わせて、桔梗の庭が整備された。
白い小石を敷き詰めた庭に、杉苔(すぎごけ)が雲型のデザインを作って生えている。その杉苔の中から、桔梗がりりしく茎を伸ばし、穏やかな青紫の花をつける。管長の町田泰宣さんは「緊張感を持って立っている」と表現する。
約1000株の桔梗が、100カ所ほどにまとめられて散在する。緑の苔との相性は、よさそうに思える。雨が降れば、苔がしっとりして風情が増す。ところが、その組み合わせが、悩みの種でもある。
「好天が続けば、桔梗の花は色がよくなる。雨が多いと色があせ、根が腐ることもある」。水分を好む苔と、好まない桔梗。実は、正反対のものをセットにしているのだという。
予備の桔梗を鉢で育てている。朝は、お勤めの後、庭の草抜きをしてから、食事をとる。美しい庭を保つための苦労である。「庭には、難しい理屈はいらん。見た人がなじんでくれればいい。そうさせるのが花。花は何の説明もいらん」。そんな信念を持っている。
町田さんは南画を描く。桔梗は、何度も題材になっただろうと思った。返ってきた答えは違った。「苦手なんですよ。毎日見ているから感動がないのだろうか」。そうではない。「鑑賞するより、守る意識の方が強い」という気持ちのせいに違いない。(梶川伸)
◇廬山寺◇
京都市上京区寺町広小路上ル。京阪三条駅、出町柳駅から徒歩15分。075-231-0355。拝観有料。紫式部は、曽祖父の堤中納言の建てた邸宅で育ち、結婚生活を送ったと言われる。すぐ近くに京都御苑、梨木神社がある。
=2004年6月29日の毎日新聞に掲載したものを再掲載。状況が変わっているかもしれませんが、ご了承ください。2015.05.05
更新日時 2015/05/05