寺の花ものがたり(6) おふさ観音(奈良県橿原市)バラ=5月中旬~6月下旬
山門をくぐると、境内はバラの庭園だった。その数、約1000種。1000株をはるかに超える。
トレーニングウエア姿で笠をかぶり、背中にかごを背負った男性が、咲き終わった花を摘んでは、かごに入れていた。この人が、バラを育てた副住職の密門裕範さんだった。「花がら摘み」と言い、毎朝1時間の日課だそうだ。「花が好きで」と話すが、格好を見ればわかる。
父の密門光範住職は、ナデシコの鉢植えを手がけた。裕範さんは一年草のナデシコよりも、年々花を咲かせるバラに魅せられた。植物園でオールドローズに出会ったのがきっかけだった。「シャクヤクのように、柔らかな花びらをたくさんつけて、カップ状に可愛く咲いてから、花びらを広げていく。ほかの花にはない香りも素晴らしい」
1995年にまず3株を購入した。翌年は十数株。自分の好きなバラを選んだ。100株を超えると、「手入れのしんどさは同じこと」と考えて、どんどん増やした。500株を過ぎたあたりから、「しんどいと思わんことにした」。やがて、バラの寺になった。本堂の裏側も、香りとたくさんの色に覆われている。
多いのはイングリッシュローズの系統。オールドローズに似るが、さらに香りが濃厚だという。「イングリッシュローズは200種くらいと言われ、7~8割はそろっている」と、ちょっと誇らしそうに語る。
イングリッシュローズは新しい系統で、剪定(せんてい)法が確立していない。「試行錯誤で栽培法を見つける楽しみもある」。袈裟(けさ)を脱いだトレーニングウエアも様になっている。(梶川伸)
◇おふさ観音◇
奈良県橿原市小房町6の22。0744・22・2212。近鉄大和八木駅から徒歩25分。バスは「小房」下車。江戸時代、おふさという女性が観音をまつったのが始まり。境内の茶房でバラジュースやハーブカレー。秋の見ごろは10月中旬~11月下旬。
=2004年5月18日の毎日新聞に掲載したものを再掲載。状況が変わっているかもしれませんが、ご了承ください。2015.02.28
更新日時 2015/03/01