寺の花ものがたり(1) 地蔵院(京都府井手町)枝垂れ桜=3月上旬~4月上旬
鐘楼の横に、高さ10㍍ほどの枝垂れ桜が立っている。南に向いた山肌で、太陽に誘われるように枝を広げ、先の方は地面に向けて4~5㍍も垂れている。
江戸時代の「雍州府史(ようしゅうふし)」には、1727(享保12)年に植えられたと書かれている。樹齢277年。岡本圭堂住職によると、寺にあった親の桜の種から育った「実生(みしょう)」だという。
長い年を経て、さすがに樹勢にかげりが見える。「戦後間もなくの大雪の日、南東の枝が音もなく折れてしまった。年いっとるから」と、岡本住職は振り返る。
木全体が花に覆われているのではなく、花の塊がいくつかの層になって咲いている。その分、花の向こうが見通せる。寺は122㍍の小高い山にある。境内に立ち、花の間から、ゆったりと流れる木津川を遠望すると、のどかな春を実感する。
京都市・円山公園にあった先代の枝垂れ桜(1947年に枯死)は、この寺の親桜からできた兄弟桜だ。兄弟は多く、海外にも渡り、「サンフランシスコにも行った、と先々代の住職から聞いた」という。
天然記念物の枝垂れの子桜が、境内に2本。さらに子桜を作る試みがされた。しかし、「実生は難しい。家内が何回かやったが、成功しなかった。府も100本を接ぎ木したが、これも失敗した」。老いのせいだろう。
境内にはほかにも、山桜など25本前後の桜がある。「枝垂ればかり見にくるが、ほかも個性的な桜ばかり」。岡本住職は客の波が引いた後、好みの桜を静かに眺めるそうだ。「今年の花はせっかちで」。花見は終わりに近づいている。(梶川伸)
◇地蔵院◇
京都府綴喜郡井手町東垣内16。JR奈良線玉水駅から徒歩約30分。近鉄京都線三山木駅からタクシーで10分。0774・82・2810。桜の維持費として500円。橘諸兄(たちばな・もろえ)の創建と伝えられる。近くに桜の名所の玉川がある。
=2004年4月6日の毎日新聞に掲載したものを再掲載。状況が変わっているかもしれませんが、ご了承ください。
更新日時 2015/01/11