編集長のズボラ料理(53)サンマのオレンジジュース焼き
遍路旅の先達(案内人)をしている。その日のお参りをすませ、穏やかな心になって宿に入る。温泉であればゆっくりと湯船に身を置き、落ちてゆく夕日を眺める。遍路仲間に「夕日は1日の思い出がいっぱい詰まっているので、重くて重くて沈んでいく」などと、気取ってみたりする。
さて、夕食。「1粒の米にも万人の労苦を思い、1滴の水にも自然の恩徳に感謝し、ありがたくいただきます」。食前の言葉を唱和して、はしを持つ。運ばれてきた食事をかみしめる。遍路らしい良い流れである。本当は、昼間からワイワイとにぎやかなのだが、こう書かないと、後の続き具合が悪い。
しばしば、宿に休暇村を選ぶ。夕食はバイキングである。そうなると、流れは変わる。食べ放題は人間から、節度だとかつつしみや落ち着きを奪い、競争心をあおる。
用意された食べ物がなくなるわけはないし、なくなれば新しい温かいものが追加されるで、その方が得なのだが、どうも気があせる。食前の言葉が終わるやいなや、スタートダッシュをかける。ウサイン・ボルト選手も真っ青になるほどだ。
テーブルに戻ってくると、「1粒」どころか、皿は山盛りになっている。万人の労苦を大きく超え、億人の労苦を思わなければならない。ただ、たいていの場合、普通の食事よりも早く終わる。「苦しい」とうめきながら、「これも修行」と言い合い、自分を納得させる。
夜が明けて、朝食で戦いは再開される。僕の場合、修行の辛さは飲み物に端的に表れる。オレンジジュースとリンゴジュース、牛乳とスープ、みそ汁と並んでいる。1滴の水に感謝しながら、すべての恩徳をいただく努力を重ねる。四国はミカンどころだから、オレンジジュースから始めるが、途中で挫折する。まだまだ、修行が足りない感じながら。
1泊2日のある遍路旅の際、2日目の昼食もバイキングの店を選んでしまった。3回連続して食べ放題で、空海ならぬ食う会になってしまった。そこまで修行を繰り返せば、自然と悟りがひらける。「食をむさぼるなかれ。食べ放題の連続は最大2回まで」
今回はオレンジジュースを使う。サンマを食べやすい大きさに切り、軽くカタクリ粉をつける。フライパンにオリーブオイルをひいて、サンマの両面を焼いた後、1度取り出す。フライパンを洗い、オレンジジュースにしょうゆと砂糖少々を加えたものを入れて火をつける。サンマをその中に戻し、炒め煮にのようにする。煮つめるくらいまでにして、できあがり。悟りの味になっているかどうか。(梶川伸)
更新日時 2013/09/12