編集長のズボラ料理(47) 涼味卵
「湯快リゾート」と名づけられた温泉宿が、安くて人気らしい。遊び仲間3人で飲んでいる時、1人がそう話し、「1度行ってみよう」と言い出した。僕は「確か兵庫県の湯村温泉にも、それがある」と応じた。もう1人は、すべてお任せである。別れ際に、行く日を決めた。
JR八鹿(ようか)駅に集合し、湯村温泉行きのバスに乗った。乗客は少なく、後部に座った僕たちは、気兼ねなく話しができた。万事、順調な温泉旅行である。
ふと不安がよぎった。宿の話が出ない。念のため、言い出しっぺに確認した。「予約してあるよね?」。すると、「予約してくれなかったの?」。ガーン。
僕は当然、言い出しっぺが宿に連絡すると思い込んでいた。ところが相手は、僕の役割だと信じて疑わなかった。もう1人は、すべてお任せである。
バスの中から宿に電話を入れた。満室だった。ガーン。あたふたしている様子を察知して、バスの運転手が旅館を教えてくれた。それも気を遣ってくれ、値段は手ごろ。部屋は空いていた。ホッ。
さて、温泉街をブラブラ。当然、温泉卵である。生卵を買ってザルに入れ、熱い蒸気の力で作り、1人2個ずつ食べた。地元の人が大量のネマガリダケ(根曲がり竹)を採ってきて蒸していたので、お願いして分けてもらい、それも食べた。
そばにいた若いカップルは、リュックからうどんを取り出して蒸し、用意していたつゆにつけて食べている。手慣れたものである。こちらも負けじと、出石ソバの半生を買った。ところが蒸すための容器がない。そこで、卵が入っていたネットを使い、温泉ソバに挑戦した。でき上がって食べようとすると、はしがない。すかさず、カップルがはしを差し出した。温泉遊びのベテランと見た。僕らはさらにエンジンがかり、温泉トウモロコシも食べ、夕食前に満腹になった。
だしをとり、白じょうゆをたらして、さます。フライパンに8分目ほど水を張り、生卵を落とす。弱火でゆっくり温め、白味が固まって黄身が好みの半熟状態になったら、フライ返しで慎重に取り出し、器に入れる。だしも張り、ミツバのような涼し気な色のものを添えて、冷蔵庫で冷やして食べる。温泉のもとを入れた風呂に入った後なら、さらに良い。温泉なんかに行かなくても。(梶川伸)
更新日時 2013/07/10