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編集長のズボラ料理(857) カキおこ

塗るのはソースでもしょうゆでも

 長い言葉は縮めたくなる。それはわかるのだが、最近は何でも省略してしまう。
 略してもスムーズな音の流れならすぐに受け入れるのだが、ギクシャクしたものもお構いないから、なかなかあなじめないものもある。
 「カキおこ」もそうだ。カキのお好み焼き。「お好み」を「おこ」で切ってしまうので違和感があり、最初はピンとこなかったが、いまでは慣れてきた。何度も聞いたからではない。何度も食べたからだ。
 略語のカキおこは、岡山県・日生から始まったような気がする。まちおこしでカキのお好み焼きを始め、それを「カキおこ」としてPRして広まったのではないか。
 僕は、いや僕らは一時期、冬に日生通いをした。きっかけは、友人が日生に行き、地元の人から「きまぐれ」という小さな店を教えられたことだった。たった4席の店。駅から1番遠い店。カキの数が多い店。そのことを吹聴した。
 そこで、遍路仲間が行ってみた。安上がりにするため、青春18切符で。10年ほど前だが、カキおこは900円だった。そのくらいのものを食べるために、特急などに乗ったら割に合わない。
 12月だったので、店のおばちゃんは「カキがまだ小さい」と言って、16個も乗せてくれた。数の衝撃が、日生通いに向かわせた。
 今度は僕が吹聴しまくった。弟夫婦を誘って行ってみた。弟の車だから交通費ゼロ。もうカキが大きくなっている時期だったが、12個も乗せてくれた。また大きな衝撃を受け、小さなコラムに書いた。
 僕の吹聴は止まらず、遊び仲間を誘って訪ねた。当然18切符。コラムのコピーを渡すと、おばちゃんは缶入りの生ガキを土産にくれた。
 この衝撃は大きかった。今度は毎日新聞旅行に吹聴した。するとツアーを組み、提案者の僕は招待された。つまりタダ。言いふらしてみるもんだ。
 家で作ってみた。キャベツの千切りをたくさん作ってボウルに入れる。細かく切ったネギも。小麦粉、溶き卵、すり下ろした長いモ、白だし、水を加えても混ぜ、生地をつくる。フライパンに油をひき、生地を円盤状に流し入れる。上にカキを乗せてしばらく焼いたあと、ふたをして蒸し焼きにする。最後にひっくり返し、カキの面を焼き、またひっくり返して皿に乗せる。
 日生通いのきっかけを作ってくれた友人から、ある冬に悲報が届いた。行ってみたら、閉店していたという。それ以来、日生通いはストップしたまま。家で作るしかないが、カキはせいぜい8個止まり。(梶川伸)2026.03.09

更新日時 2026/03/09


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