編集長のズボラ料理(32)キュウリと長イモの梅肉ワサビ
この夏、妻が10日ほど入院した。厳密に言えば、期間の後半は「入院させてもらった」だった。
高熱が出て足がふらつき、部屋の壁に顔をぶつけた。病院に行くと、いくつもの数値が悪く、入院をすることになった。神経質な性格なので、個室をとった。
入院中、妻のためにベッドを注文した。退院後を考えての仏心だった。そのことを告げに行った日、医師から退院を打診された。病状が急激に良くなり、普通の生活ができるようになったからだ。
ここからは、奇妙な経過をたどる。妻はベッドが届いてから退院したいと言い出した。それは5日後だった。つまり、医師にお願いをして、病院に置いてもらうことになった。変わった性格だ。
そうなるともう、リゾートホテルの気分である。病院は家から自転車で3分ほどなので、避暑地の生活を快適にするため、さまざまな注文電話が入った。
部屋にアロマの香りを漂わせた。よく眠れないと言うので、家の枕を持って行った。「抱き枕が欲しい」。イルカの形のものを買いに行った。「病院内で歩く練習をするので、ウォーキングシューズを持ってきて」「ハイハイ」。「糖尿病教室に参加する。寝巻では恥ずかしい」。妻のお気に入りの服を探して運んだ。
退院が近付いた日には、「マル秘作戦を決行する」と連絡があった。歩くのは病院内に制限されているのだが、近くのスーパーに行ってみると言う。そのためには、帽子とサングラスとシュシュがいるそうだ。変装をして病院を抜け出す作戦らしい。シュシュは何のことかわからなかったので、娘に買ってもらった。腕に患者名を書いて紙の輪をはめているのだが、それを隠すために、必要らしい。
帽子を目深にかぶり、サングラスをかけ、腕にシュシュを巻いて、周囲をうかがいながら作戦を決行した。僕は後をつけたが、病院内では異様な姿だったと思う。結局、入手したのは化粧水などで、あまり大きな成果はなかったようだ。
病院食で出たものを、少しアレンジしてみた。キュウリは薄い輪切りにして、少し塩をふる。長イモを適当な薄さに切る。梅肉とワサビであえる。僕は松前屋の「昆布の水塩」というスプレーが気に入っているので、あえる前にそれを噴霧して、昆布の味をつけておいた。(梶川伸)
更新日時 2012/08/13