編集長のズボラ料理⑱ 生ピーマンのマーボー豆腐詰め
父は転勤族で、よく引っ越しをした。僕も幼稚園2つ、小学校4つ、中学校は2つ経験している。
高校は名古屋だった。2年生の時に、また父に辞令が出て、大阪に行くことになった。さすがに僕も決断をして、名古屋に残った。父の親しい人の家に下宿したのだ。食事は奥さんが作ってくれた。
同じように1人住まいの同級生がいて、いつの間にか仲良くなった。いくら食べてもお腹がすくころだった。では、どうするか。授業が終わると、2人で校内を歩き回り、飲み終わった牛乳瓶を探す。それを購買部に持っていくと、1本5円で引き取ってくれた。
手に入れたお金で、お好み焼き屋に行った。そこで1番安いお好み焼きを注文し、店にある中日スポーツのプロ野球の記事を読みながら時間を過ごした。
夕食は奥さんにお願いして、午後5時45分からにしてもらった。僕の部屋にテレビがないので、テレビのある居間での食事は、毎日の楽しみだった。好きだった番組が「ひょっこりひょうたん島」で、5時45分からの放映だったのである。人形劇だが、高校生が見ても面白かった。と思っているのは僕だけか。
楽しい夕食だったが、1つだけ困ったことがあった。そのころの僕は野菜が好きではなく、特にピーマンは天敵だと信じていた。ところが、ピーマン料理はしばしば出た。最初のうちは、奥さんの目を盗んでピーマンを紙に包み、自分の部屋のごみ箱に捨てていた。
やがて空腹には勝てず、ピーマとの関係は改善され、仲良くなり、天敵どころか空腹の強い味方に変身していった。僕にとって下宿の最大の効果は、食べ物の好き嫌いをなくしてくれたことだろう。
先日、同僚と大阪駅前第1ビルの「福寿」という居酒屋に行った。シャーベット状の凍結酒を置いているからだ。メニューにマーボーピーマンなるものがあったので、注文した。出てきたものは、イメージしたものとは少し違っていた。以下は、その料理だが、作り方を聞いたわけでもないので、ズボラ我流である。
大き目のピーマンを縦2つに切っておく。マーボー豆腐のもとを使い、さいの目切りにした豆腐と、ひき肉、ネギを入れていため、とろみをつける。これをざるに入れて、水分と油分を落とし、生のままのピーマンに詰めて食べる。ピーマンとの関係はいまだに良好。(梶川伸)
更新日時 2011/08/24