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心にしみる一言(375) 私、孔雀明王になりました

岩屋寺の参道

◇一言◇
 私、孔雀明王になりました

◇本文◇
 2泊3日ずつの自転車遍路をしたことがあり、その6回目はツツジ時期だった。愛媛県内子町のJR打ち子駅で自転車を組み立て、リュックを背負って走り出した。どうも荷物の量が少ない。点検してぼう然とした。納経帳と白衣がない。遍路にとっては、大事なものなのに。
 家と連絡をとり、この日の宿に宅配便で送ってもらうことにした。次は45番・岩屋寺に参拝する予定だったが、その日は寺に参らず、のんびりと宿を目指すことにした。
 ツツジが満開の山道を、尼僧が歩いていた。私は上り坂で疲れたこともあり、自転車を下りて声をかけ、しばらく同行した。
 「○○精華」という人だった。苗字は覚えて3いないg、私の住んでいる隣町が、京都府精華町なので、名の方だけは覚えている。
 短大を卒業して2年間は社会に出たが、仏縁があって高野山で1年間の修行をし、2年間はお礼奉公。出身地の福岡県の寺で務めることになり、寺に向かう途中、四国八十八カ所を巡拝していた。
 尼僧は岩屋寺に参るのを楽しみにしていた。そこには、女性の仙人「白山権現」の修行場があり、福岡の寺にも白山権現が祭ってあるからだという。
 そこまで聞いて、自転車に乗った。岩屋寺まではまだ30キロもある。もう会うはずがないと思った。
 翌日、忘れ物が届くの待って、岩屋寺を目指した。着いたのは午前11時。自転車を置いて、15分ほど参道の上り坂を歩いた。本堂、大師堂で般若心経を唱えた後、、前日の話を思い出し、白山権現の修行場へ行ってみることにした。
 本堂からさらに500メートル近く山道を進んだ所に、修行場はあった。2つの巨大な岩がすり寄り、そのすき間をはい登って修行したのだという。訪れる人はほとんどなく、静けさの中に、しばらく身を置いた。
 本堂に下りると、何と尼僧が汗をふいていた。歩き遍路では、そんなに早く着けるはずがない。不思議な顔を見て取ったのだろう。第一声んが「私、孔雀(くじゃく)明王になりました」だった。
 途中で車に乗せてもらったので、孔雀のように飛んできた、とはしゃいだ。さわやかな笑顔。忘れ物をしたために、こちらのお参りが遅れたことが、かえってよかったような気がした。(梶川伸)2022.05.16

更新日時 2022/05/16


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