心にしみる一言(364) 何ぞ、ミカンの便があったら、自転車を運んだるのになあ
◇一言◇
何ぞ、ミカンの便があったら、自転車を運んだるのになあ
◇本分◇
前回に続いて、自転車に関する話。
四国88カ所を自転車で回っている時だった。徳島県の20番・鶴林寺へ向かった。寺は標高570メートルの場所にある。体力がない私は、不安を覚えながら、勝浦町の山道をゆっくり登っていった。12月の末だった
ミカン畑の横を通っていく。ミカンを収穫している女性がいたので、休憩を兼ねて、しg¥ばらく話をした、ミカンは「十万」という品種だという。「棚に寝かしとって、春先に1番甘うなるんよ。まだ酸いいかもしれん。食べてみるで」。、木から1つミカンを切り取ってくれた。葉を1枚残して。この心遣いが、何ともうれしかった。
食べると甘い。「甘いよ」と答えると、もう1つミカンをくれた。それは、ウインドブレーカーのポケットに入れた。
さらに話は続く。「鶴林寺は、山を越えて向こう側に下りていく」。そんなコース尾説明の後、取り上げた言葉だった。「何ぞ、ミカンの便があったら、自転車を運んだるのになあ」。申し訳なさそうに言うので、こちらが恐縮した。
鶴林寺への道は、予想以上につらい道だった。最後の5キロは、自転車を押して上った。鼻水が出て止まらない。汗も混じる。顔は寒さと暑さが入り交じる。みっともないことこの上ない。出会う人がいないので、そのままにして上る。ウインドブレーカーの中にも汗がたまる。一休みして、ミカンを口に含んだ。水分の多い、爽やかな甘さが広がった。のどが潤ってうまかった。(梶川伸)2022.03.14
更新日時 2022/03/14