心にしみる一言(352) モローはお好きですか
◇一言◇
モローはお好きですか
◇本文◇
美術展には時々行く。ほとんど1人で行くから、話す機会がない。だから作品は多少覚えていても、会場での会話はほとんど覚えていない。
そんな中で、1つだけよく覚えている会話がある。高松市で勤務していた時、高松市立美術館で開かれていた象徴派展を見に行った時だった。
ギュスターブ・モローの作品が3点展示されていた。それを見るのが目的だった。水彩の小品ばかりだったが、繊細で官能的なタッチに見入った。
帰りに作品の絵はがきを3枚買った。すると、係の女性が話しかけてきた。客が少なかったこともあるのだろう。「モローがお好きですか」
3枚のうち2枚がモローだったからだ。「好きです。高校生の時に見た絵が印象的だったので」と、聞かれていないことまで話してしまった。
高校生の時に名古屋市で見たのは、きらびやかで禁断の香りがする大作だった。高松でもそんな作品を期待して入館したのだが、あてが外れたと思っていた時の「お好きですか」。その一言で、小品には細やかな良さがあると、期待外れ感を翻してしまった。
それから20年ほどたって、大阪市のあべのハルカス美術館で、モロー展を見た。その時は人も多く、無言で見るだけだった。(梶川伸)2021.12.16
更新日時 2021/12/16