もういちど男と女
名字というものが、重くのしかかっていた。学者である女は、時代の中に半生を位置づける。 7代続く旅館に生まれた2人姉妹の妹だった。姉は女将(おかみ)になるも...
スナックの壁には、北海道の雪祭りの写真がたくさん飾ってあった。女はそれを少しずつ外していく。ただ1枚、雪のかまくらの中で男と撮った写真だけは、アルバムの中に残...
女22歳で結婚した。夫は社長の1人息子で、会社では専務だった。家は会社の横にあった。1年半たち、これからが本当の夫婦という時期に、離婚した。 夫が家に帰ら...
男は女性を使い捨ての道具のように考えていた。40代になり、5回目の結婚で落ち着いた。やっと「家庭」を見つけ、十数年の時が流れた。 漁師町の裕福な商売人の長...
男の携帯電話が鳴った。女は言った。「脳の腫瘍(しゅよう)で、あした手術することになりましてん」 女ばかりがしゃべった。「最後まで迷惑をかけて」「世話になっ...
男が亡くなったと、電話があった。男の息子からだった。女はその夜、一睡もできなかった。 翌日になって弔問した。焼香の際、男の妻と目が合った。不意に、「同苦」...
夫や子どもとの生活に、何の不満もない。しかし、女は漠然と思い始めた。「恋がしたい」 幼稚園に通う子どものお母さんたちで、ショットバーに行ったのがきっかけだ...
すべて、ボタンの掛け違いから始まった。2度目の結婚生活を、男はそう振り返る。 最初の結婚は29歳だった。大学で実験に明け暮れていると、職場の女性に、「30...
信州に住む男のもとに、東京から手紙が届いた。別れた妻からだった。「桜の季節になって、私にも春が来ました。再婚しました」 男に動揺はなかった。「東京は花見の...
妻の死は早すぎた。まだ50歳を超えてところだった。 妻は異常を訴え、男が付き添って病院に行った。腹水が大量にたまっていた。がんと診断され、すぐに入院して手...