もういちど男と女
部屋の家具の陰から、男が姿を見せた。トレーナーのラフなスタイルだった。女は黄色のTシャツで、自分でも「若づくりかな」と思っていた。 「何をしているんですか...
たばこが離せない男だった。命が尽きようとしても、吸いたがった。女は病院に見舞いに行くと、車いすに乗せて、地下駐車場に連れて行った。寒い時期だったので、女の車の...
がんの治療のため、男は入院した。女が見舞いに行くと、ベッドの枕元に、ハンカチが置いてあった。真っ白で、2方の端に、細かい花あしらってあった。誰が持ってきたかは...
「この庭にはなにもない」。宇治・万福寺のことを、立原正秋はそう書いた。 「伽藍(がらん)と伽藍の間を、風が吹き抜けているだけらしいの。行ってみましょう」と...
「すみれの花咲く頃(ころ)」。宝塚歌劇の歌が、恋の幕開けを告げた。 女は50代で夫を亡くした。「閉じこもっていたらだめ」とハイキング仲間に誘われ、週1回の...
寂しがり屋だと、男は思う。3度目の結婚も、寂しさのせいだったのかもしれない。 仕事には自信があった。会社勤めの時は、営業の実績が評価された。独立してからは...
「結婚しない、と頑張ってるわけじゃないのよ」。友人にそう話したことがきかけで、女に縁談が持ち込まれた。 東京で会社勤めをしていた。ダンス、古文書、雅楽。新...
女の話には、どこかに父親の影が落ちていた。夫に物足りなさを感じ、妻子ある男と付き合ったのも、そのせいだったのかもしれない。 父は家族を支配した。気に入らな...
友だちは「カミーユ」と呼んだ。ロダンを愛した彫刻家、カミーユ・クローデルの作品を、展覧会で見てからだった。 その作品「分別ざかり」には、3人の男女が登場す...
初恋行きのチケットを眺め、女はコンサートの日を待つ。50の大台に乗った今も心が躍る。会場に行けば、高校時代の空気を吸うことができる。 高校のころ、女は友だ...