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心にしみる一言(288) 竜神という思いだけは残す

田辺市龍神村の風景

◇一言◇
 竜神という思いだけは残す

◇本文◇
 毎日新聞記者としての初任地が和歌山県だったので、竜神村はなじみがある。山奥の村だが、美人湯とのして名高い竜神温泉があり、よく知られている。私も何度か行った。
 平成の大合併で、竜神村は田辺市の一部となった。合併について、田辺市で取材した時だった。竜神村出身の市議会議長の話が印象に残っている。新しい地名についてだった。
 旧竜神村が田辺市になってからの地名には、「村」が残った。それが興味深かった。例えば旧竜神村福井は田辺市龍神村福井となった。なぜ、市の中に村があるような、そんな奇妙な名前になったのか。
 議長によると、旧竜神村は合併に当たって、地名に関するアンケートをした。「田辺市竜神村福井」は33.2%、「辺市竜神福井」は52.4%だった。しかし、地域ごとの懇談会をすると、「村」を残したい人が5割を超えると感じたいう。村議会でも6割が「村」派だった。そうして、村は残った。
 旧村長は「歴史、文化、伝統を重んじて、独立国でいく」という考えだった。しかし、そうはいかなくなり、「竜神という思いだけは残す」の住民の気持ちが、「村」に結実したのだと話した。
 合併後はどうか。東京や大阪に住む竜神出身者の会では、「よく残してくれたと言われた」と議長は語った。「ふるさとは遠くにありて思うもの」の詩を引き合いに出して。一方では、「高校生や中学生は市の中に村があるのを、ダサイと思っている」とも言った。(梶川伸)2021.02.20

更新日時 2021/02/20


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