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心にしみる一言(275) 花の香りを道しるべにした

壷阪寺のラベンダー

◇一言◇
 花の香りを道しるべにした

◇本文◇
 お寺の花をテーマにした「寺の花ものがたり」を、毎日新聞に連載していたことあがある。当時は取材していたが、いまは印象だけを「マチゴト豊中・池田ニュース」に載せている。
 奈良県高取町の壷阪寺(つぼさかでら)は、浄瑠璃「壺阪霊験記(れいげんき)」の舞台となっている。盲目の沢市と妻お里の物語で、お里の夫への愛を中心に展開される。
 住職に取材して、寺にはお里の心が根底に流れていると知った。目の不自由なお年寄りのための養護盲老人ホーム「慈母園」が敷地内にあり、訪ねた当時は50人が生活していた。
 境内にはラベンダーが植えてある。寺のラベンダー? 不思議に思うと、すかさず住職が言った。「なぜ、においがきついラベンダーか。参拝者に疑問を持ってもらい、考えてもらう」
 住職は大学の農学部出身で、大学院も修了した。作物、小麦を研究した。遺伝学、育種学も。やがて寺を継いで、平成元年から自分の得意分野の花を植え始めた。植えたものの1つがラベンダーだった。
 「強い香りのラベンダーは寺に合わない」と言う人もいる。それでも、あえて植えているのはなぜか。その答が、取り上げた言葉だった。
 「道しるべにした。花を香りを伝って行けば、伽藍に行き着く」。ここにも、お里の気持ちに通じるものがある。
 寺のラベンダーが知られるようになり、北海道・富良野のような一面のラベンダーを期待して訪ねる人もいるとか。そんな人は疑問に思って、住職や寺に聞く。そうして、目の不自由な人にとって、香りの大事さを知ることになる。(梶川伸)2020.12.05

更新日時 2020/12/05


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