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編集長のズボラ料理(371) 豚肉のクミン焼き

緑の彩りは好きなものを

 うちの台所には、香辛料が結構たくさんある。黒コショウ、白コショウ、パセリ、バジル、カレー粉、ターメリック、カルダモン、シナモン、パプリカ、ナツメグ、七味、サンショウ……。みんな粉末だが。
 これらは、開き戸のついた棚の中に、ひっそりと並べられている。なぜ、ひっそりなのか。コショウや七味くらいは日常的に使うが、ほかは滅多に使わないから、そうなる。
 いや、本当は使い方を知らない。だから、小さな容器にほとんど丸まま残っている。まるでスーパーの香辛料の凛烈棚である。並べてあるのは、見栄みたいなものだ。
 使わないから、何があるのは忘れてしまう。そうなるとスーパー香辛料に棚の前を通り、「家にはない」と思い込んで同じものを買ってしまう。ネツメグやクローブは2つある。
 クローブは粉にする前のもので、容器は大きい。1つを使い切るまで10年はかかる。もう1つは封も切っていないから、両方がなくなるまでには25年はかかる。
 クローブのことだけは忘れてはいけない。そう心に決めている。もし、3つ目を買ってしまうと、すべてが空になるには50年はかかり、子どもたちに古い順を示す遺言書を残すことになる。
 おふくろが亡くなった後、台所の引き出しを開けると、つくだ煮の「まつたけ昆布」の袋がたくさん出てきた。とても好きで、デパートに行くたびに買って帰ったのを覚えている。いくら形見とはいえ、残念ながら古いものはゴミ箱入りとなった。
 そう考えると、僕はおふくろの血を確かにひいている。クローブの場合は、まつたけ昆布よりは長持ちする。でも、50年持つかはどうか。
 今回はクミンの粉を使う。実は粉も実もあり、これも2つ。早く早く使わなければ、これも遺言入りしてしまうのだ。
 薄切りの豚肉に塩、コショウ、クミンの粉をふり、さらにカタクリ粉まぶす。フライパンにサラダ油をひいて熱し、豚肉を炒める。そうめんつゆなどで軽く味をつけ、少しとろみがついてきたら、彩りにカイワレを加えてサッと混ぜて、皿に盛る。
 クミンはまだ大量にある。置きっぱなしの香辛料に後ろめたさがあり、なるべく香辛料置き場は見ないことにしている。(梶川伸)2019.09.10

更新日時 2019/09/10


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