編集長のズボラ料理(788) 白ネギの豆鼓炒め
新聞記者時代、取材で「ネギの鼻たれ」とい言葉を教えてもらった。冬になって、白ネギの中にトロッとした液体ができ、切るとトロッと出てくる。それを鼻たれと呼ぶ。京都のうどん屋さんの主人の言葉だった
昔は鼻たれ小僧がいた。鼻は服のそでふき、そではテカテカに光っていた。そんな子どもはいなくなったが、ネギに変身していたとは。
鼻たれ、の言葉はあまり品が良いものではないが、京都の人が使うと、どこか風情があるから不思議なもんだ。しかも、主人はネギに鼻が出始めると、店の名物としてネギうどんを始める。それまで裏向きにしていた壁のメニューの板を表に向けるというから、粋なもんだ。鼻たれも、品良く思えてくる。
しかも、「ネギうどんはネギが主役」と言い切るからたまらない。白ネギはなかなか主役にはならのに。
大阪市・梅田の店「寅連坊」で、遍路仲間と一杯飲むことがある。テーブルの上に「本日のお通し」と書かれた小さな紙が置いてあり、ビールを注文すると、現物が運ばれてくる。この中身がおもしろい。
木のますに、4つのおちょこが入っている。その日のおちょこの中身は①焼きナスのゴマソースかけ②キノコと小松菜のおひたし③スモーク鴨と白ネギのワサビみそ。4つ目は新潟の酒、八海山だった。ますとは別に、タイと豆腐のあら炊きがついていた。白ネギはせいぜい、そんな存在なのだと思う。
ただ、印象に残った白ネギがある。北海道標茶(しべちゃ)町の「味匠もり」で食べた牡蠣そばだ。釧路湿原のSLに乗った際、ふらりと入った店だった。
ソバは弟子屈(てしかが)産、カキは厚岸(あっけし)産。牡蠣は6個乗っていた。ほかに斜め切りした白ネギ、ワカメ、ユズの皮も添えてあった。ここまでならそれほど驚かないのだが、白ネギは薄い輪切りにしたものが、薬味ととしても別の皿に盛ってあった。主役にはならないが、2種類に使い方で存在感を見せていた。なかなか、やるもんである。
そうだ、白ネギを主役にしよう。白ネギを食べやすい大きさの輪切りにする。フライパンに油をひいて、転がしながら焼き、豆鼓醤を加えて味をつける。
これなら、どうだ。白ネギ以外は油と豆鼓醤なので、主役にならざるをえない、とも言えなくもないが。鼻たれがあると、外側と内側が分離してしまうこともあるが、それもいいではないか。(梶川伸)2025.03.03
更新日時 2025/03/03