心にしみる一言(139) 海はねとっとして、波が立たなかった。風の中に油が入っているようで、火をつけたら燃えるのではないか、と思った。
◇一言◇
海はねとっとして、波が立たなかった。風の中に油が入っているようで、火をつけたら燃えるのではないか、と思った。
◇本文◇
1997年1月2日未明、島根県沖でロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」が沈没し、C重油6000キロリットルが流れ出した。真っ黒い膜が海面を覆い、遠く離れた福井県三国町の海岸に折れた船首とともに流れ着いた。
当時、職場は高松市だった。知り合いになった前衛書家、津幡大洋さんは北陸出身で、自分が泳いだ海が油まみれになったことに心を痛め、縦1.8メートル、横5・6メートルの大作を仕上げた。紙にしわを寄せて押し寄せる波に見立て、巨大な筆でベットリと墨を塗った。作品名は「日本海のうめき」。
この作品はしばらくして、現地に届けることになった。受け入れてくれたのは、船首の漂着現場に近い福井県三国町の大湊神社だった。宮司の松村忠祀さんは、福井市立美術館長も兼ねていた。
作品は大きすぎて、4トントラックで運ぶことになり、同行した。出会った松村さんが当時をを思い出して発したのが、上の一言だった。さらに、「木の葉なら大地に戻る。しかし、重油は戻らない」と言葉をつないだ。
石油に頼った生活をしている人間への、しっぺ返しなのか。そう感じて、タールで真っ黒になった浜辺の石を持ち帰った。(梶川伸)2018.01.02
更新日時 2018/01/02