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編集長のズボラ料理(281) ジャガイモ団子

チーズは多めの方がいい

 友人が兵庫県明石市に住んでいて、何度か明石の街を案内してもらった。
 当然飲むことになるのだが、軽く飲むには玉子焼きの店がいい。安上りだからだ。
 「玉子焼き」とは、だしをつけて食べるタコ焼きのことで、大阪の人は「明石焼き」と呼ぶ。しかし明石の人は絶対にそうは言わないし、タコ焼きとも言わない。玉子焼きで通す。
 明石の人は1本筋が通っているのだ。東経135度に子午線が通っていて、それが日本の標準時となっている。だから、明石の人は自分たちの住んでいる所こそ、日本の中心だと信じて疑わない。
 135度に合わせて街ができている。明石駅にお降り立つと、すぐ北側には天文台があり、建物に設置されている大きな時計の標準時にあいさつすることになる。駅の南側がにぎやかで、友人のお薦めの店に入り、玉子焼きをあてにビールを口に運ぶ。溶き卵を巻きながら焼く玉子焼きも、居酒屋さんでは酒飲みにとっての定番メニューだが、明石では決して頼まない。僕はそれほど、敬意を表している。
 ふと思う、明石の人は玉子焼きのことを何と呼ぶのだろう。溶き卵の方のことだ。玉子焼きは弁当の定番でもある。子どもが「今日の弁当は玉子焼きがいいな」とねだったら、お母さんどうするのだろう。弁当箱には、どちらを入れるのだろう。開けたら玉子焼きが入っていたら、びっくりするだろうか。これは明石焼きの方の玉子焼きのことだ。
 飲んだ後は、魚介類の店が並ぶ「魚の棚」をぶらつく。「うおのたな」ではなく、「うおんたな」という言い方をする。これも子午線上のこだわりに違いない。
 玉子焼きはトロトロ感が特徴だ。その食感は、小麦粉に「じん粉」を少し加えることで生み出す。だから、魚の棚でもじん粉を売っている。酒の勢いもあって、じん粉を500グラムも買ってしまった。
 さて、どう使うか。玉子焼きなど作ったことはない。子どもたちが独立して以来、タコ焼きすら作ったことは2度しかない。その2回も水ナスのタコ焼き(「編集長のズボラ料理」15回)に挑戦した時で、1回は試し焼きだったので、結局2回になった。
 かくして、じん粉は永久保存型の運命をたどり、冷凍庫で眠っている。その眠りをさますために、ジャガイモ団子に使うことにした。小麦粉の方がいいかもしれないが、「じん粉は永遠に不滅です」では、明石の人に申し訳ない。
 ジャガイモをゆでて、皮をむき、つぶす。じん粉(小麦粉)を加え、よく練って、ラップの上で適当な長さの薄い長方形に伸ばす。真ん中にとろけるチーズを置いてから、巻きずしのように成型し、両側はチーズが出ないように閉じる。
 しょうゆ、砂糖、みりんを混ぜて、たれを作る。フライパンにたれを入れて熱し、ジャガイモ巻きずしはたれをつけながら、煮つける。煮詰まってきたら取り出し、適当な長さに切って皿に盛る。
 使ったじん粉はわずか10グラムだろうか。内なる明石は、永遠かもしれない。(梶川伸)2017.10.21

更新日時 2017/10/21


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