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寺の花ものがたり(70) 霊山寺(奈良市)の薔薇=10月中旬~11月中旬 

2005年10月13日撮影

 境内の一角を、薔薇(ばら)の花壇が占める。池があり、彫刻が置かれ、喫茶室のオープンテラスには白いいすが並べてある。洋風庭園にしつらえてある。
 別の世界に入った感がある。しかし、貫主の東山光師さんに聞くと、父で先代住職だった円教さんの戦争体験基づくもので、仏教思想にも拠っていることがわかる。。
 円教さんは終戦の年の1945年に朝鮮半島に出兵した。終戦後、シベリアに抑留されて、地獄を見た。47年に帰国し、地獄の恐ろしさを知ってもらおうと、境内に地獄洞を造った。中には、地獄絵が描かれている。
 地獄洞と対置し、極楽や平和の象徴として、薔薇の庭園を造った。帰国して10年たった57年に開園した。
 庭園は3つに区分されていた。子どもの世界は、色とりどりの小型の花が咲く。成人の世界は大輪の花。老人の世界には茶室を設け、自分が歩んできた人生を振り返ってもらえるようにした。50年がたつ。「いまは、いろいろな薔薇が入り混じる」。新しい品種も増えた。青い色が入る「ブルーヘブンも仲間入りした。「茶室は洋風の喫茶室になった」。しかし、先代の思いは生き続けている。
 本堂から見ると、東北の方角、鬼門にあたる。もとは梅林だった。鬼門には、魔物が入ってこないように、とげのある植物を植える習わしがある。その場所を選んだのも、薔薇のとげを意識してのことだろう。
 四季咲き、二季咲き、一季咲きの薔薇があり、100種2000株が花園を形作る。「春は全部咲く。花も大きくて華やか」。では、秋は? 「花は小さいが、色が鮮やか。気候のせいでしょうか」。そう言って、薔薇の園の中で、青空を仰いだ。(梶川伸)

◇霊山寺(りょうせんじ)◇
 奈良市中町3879。0742-45-0081。近鉄富雄(とみお)駅からバスで霊山寺前下車。入山有料。天平8(736)年、聖武天皇の命で行基が開創したと伝えられる。本尊は薬師如来。本堂は鎌倉時代の建物で国宝、三重塔、鐘楼は重文。薔薇の春の見ごろは5月上旬~6月中旬。
=2005年10月20日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性もありますので、ご了承ください)2016.10.09

聖武天皇

更新日時 2016/10/09


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