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寺の花ものがたり(31) 西方寺(兵庫県篠山市) 山茶花=11月中旬~12月上旬

2004年11月15日撮影

 山に囲まれた盆地の田園地帯に、ポツンと小さな寺があった。山茶花(さざんか)はかまぼこのような形で、8メートル×9メートル、高さ4メートル。これが1本の木だから驚く。
 地上60~70センの所で、幹は2つに分かれ、たくさんの枝が縦横に伸びている。住職の大槻明悠さんは「子どものころ、木に登って鬼ごっこをした」と言う。それもうなずける。
 最盛期には一度に1000を超える花をつける。だからといって、自己主張が強いわけではない。花びらはピンクの一重で、あでやかではあるが、優しさも感じさせるからだろう。
 「樹齢は?」「600年と伝えられています」。ちょっと口ごもりながら続けた。「でも、寺の歴史は400年なんで」。素朴な寺だからこその会話である。
 この夏、樹木医がやって来た。「ほめられたもんではないが、とことん悪くはない」。大槻さんは、診断結果が気になる。
 「花はこんなに咲かせんでくれ。つっぱり(支柱)はなるべくしないように。枝は垂れ下がって、根元を隠すもんだ」
 若返り法も聞いた。まず、枯れ枝を切って、もう少し日が差し込むようにする。木が望んでいるように育てる。「ただし、長い期間かかって、この形になったので、一朝一夕(いっちょういっせき)に直そうと思ってはいけない」
 この忠告は、人間にも通じると感じている。「あるべき姿に育つのが一番。しつけもするが、ある程度のサポートでしかない」
 見てもらうために育てられた山茶花。今年の花が終わったら、植木職人の手を借りて、機嫌よく育つためのサポートをすることにしている。(梶川伸)

◇西方寺◇
 兵庫県篠山市今田(こんだ)町今田新田82。079-597-2788。JR篠山口、古市駅から今田方面行きバスで今田新田下車、徒歩3分(便はごく少ない)。相野駅からタクシーで3100円前後。境内自由。本尊は阿弥陀(あみだ)三尊。
=2004年11月30日の毎日新聞に掲載したものを再掲載(状況が変わっている可能性がありますので、ご了承ください)2015.10.24

更新日時 2015/10/24


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