寺の花ものがたり(10) 観音寺(兵庫県明石市)沙羅=6月上旬~6月下旬
◎天塩にかけた はかなき夏椿
「沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色 盛者(じょうしゃ)必衰の理(ことわり)をあらわす」。平家物語のこの一節が、沙羅双樹をはかなさの象徴に仕上げた。
「正式には沙羅樹」。住職の神足(こうたり)守正さんに教えられた。「幹が2つに分かれるから、双樹と言われる」と。
沙羅双樹と沙羅は少し違う。沙羅は夏椿とも呼ばれ、朝咲いて夕べには散る一日花。
開花時期に合わせて、本堂では釈迦(しゃか)の涅槃図(ねはんず)が公開される。神足さんは「入滅した釈迦の四方に沙羅が植えてある。一方では花が咲き、一方では散っている。生と死を表している」と説明する。
狭い境内に、沙羅の木は10本。最も古いのは、樹齢270年。「300年と言ってもいいのだが、推定される最低の年数を取った」と控えめだ。
もともと1本だった。95年に本堂を新築して以降、増やしていった。10年ほどの歴史と思えるが、実は準備に歳月がかかっている。
専門家に頼んで、山にある沙羅を探してもらう。関西にはほとんどない。山で掘り起こして、それを植えればいい、というものではないらしい。山とは別の場所で鉢に植え、盆栽のように小さく育てていき、何度も移し替えをする。「そうしないと枯れる」。だから、時が長くかかる。「境内に植えるまでに、早くて7年」と言うから驚く。
5月末から、直径センチ前後の可愛い「姫沙羅」が咲く。咲き終わると、「本沙羅」の出番となる。神足さんには楽しみがある。つぼみが膨らんだ時、先端が赤いものがある。花が開くと、花弁の1枚のほんの一部が、紅をさしたように染まっている。(梶川伸)
◇観音寺◇
兵庫県明石市二見町東二見1643。078-942-1480。山陽電鉄東二見駅から徒歩10分。拝観自由。播磨西国観音霊場第二十七番。本尊の聖観音は秘仏で、開帳は約40年に1度。西国三十三観音を模した観音像が並ぶ。近くに明石海浜公園。
=2004年6月15日の毎日新聞に掲載したものを再掲載。状況が変わっているかもしれませんが、ご了承ください。2015.04.15
更新日時 2015/04/14