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編集長のズボラ料理(102) 豆腐のケーキ風

豆腐に埋め込むものは好みで

 ミシュラン2つ星の店、豊中市の桜会(さくらえ)を取材した時、オーナーシェフの満田健児さんは「料理はセンスだ」と言った。絵を見たり、音楽を聞いたり、長年かけて磨いていくのだという。
 では、ズボラにそれが生かせるのか。もともと、料理の基礎も知らなければ、センスも皆無と言ってよい。しかし、せっかく教えてもらったのだから、星として輝く料理を考えたいもんだ。弱い輝きでもいい。百等星でも、千等星くらいでも。
 センスは想像力である。想像力は連想だ。連想には遊び心が必要なのではないか。
 ただし、遊び心ではこれまで、何度も苦い経験をしている。スイカを三角に切って、マヨネーズを添えて出したことがある。簡単だし、色はきれいだと思ったのだが、「これが料理?」と、家族にののしられた。
 ミニトマトを天ぷらにしてみた。トマトの赤が見えなければ美しくないので、薄い衣にした。揚げて皿に盛ったとたん、衣がはげ落ち、「意味がない」と苦情が出た。
 イチジクでは遊びまくった。ソテー、ワサビしょうゆ、塩コンブ乗せ、温めてトロトロにしたカマンベールチーズをつける、きんちゃくに詰めたおでん、カボチャの漬け物とのサンドイッチ、ナマス、パン粉をつけて揚げる、カレーのルーをつけて食べる……。
 そうだ、思い出した。「イチジクカレー」というレトルトカレーを見たのがきっかけだった。それなら、イチジクのカレーをかけてもいいのだはないかと考えた。これが不評で、それから意地もあって、連日作り続け、ついに愛想をつかされた。
 今度こそ、そんな失敗は許されない。満田さんは、絵も見てセンスを磨いたと話していた。そこで思いついたのはキャンパスに絵を描く手法だった。では、どんな絵にするか。香川県丸亀市の猪熊弦一郎美術館には何度か行ったので、そこにヒントはないか。猪熊は具象から抽象に進み、最後はおもちゃのようなものを作っていた。おもちゃこそ遊び心の究極ではないか。方針は決まった。豆腐をキャンパスにして、子どもが喜びそうなおもちゃのケーキの絵を描くのだ。
 豆腐は水切りをして、厚さを半分に切る。ウズラの卵、さっとゆでたエビ、野沢菜、パプリカ、ミョウガ、ほぐしたサケといった色のきれいな具をセンスよく用意する。豆腐の表にスプーンを入れて、少し豆腐をすくい取る。そのへこみに用意したものをセンスよく埋め込み、蒸す。白しょうゆ、青ノリカタクリ粉を使ってあんをつくり、それつけて食べるように、センスよく皿に盛る。
 娘に試食してもらった。「今度はどううだ!」
 開口一番、「豆腐に何が刺さってるの?」。もっと違う表現がないのかなあ。(梶川伸)

桜会

更新日時 2014/09/27


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