編集長のズボラ料理(84) タケノコの梅マヨネーズ
僕には料理の天敵がいる。弟の奥さんである。
彼女は料理が好きだ。自分が気に入った食べ物を見つけると、僕の家にも送ってくれる。夫婦で僕の家に遊びに来る時は、結構珍しい土産を持ってきてくれる。それならいいじゃないか、と思うだろうが、そうでもない。遊びに来ても、どこか挑戦的なのである。
以前やって来た時は、ギョウザ対決を挑まれた。2人でスーパーに買い出しに行き、狭い台所で体当たりを繰り返しながら作った。その態度からして挑戦的だった。
僕は勝負をかけるために、豚肉、キャベツ、ハクサイ、ニラ、タマネギ、ネギ、シイタケと、豪華に具材を揃えた。それにひきかえ、敵は豚肉、ニラ、キャベツとシンプルである。そんなもので、僕に勝とうと思うのが間違っている。それに、こっちには、みそを隠し味に加えるという裏技もある。だから、負けるはずがない。
審判員は僕の家族と弟だった。敵側は弟1人。ぼくの家族は3人。身内にはえこひいきするもので、圧勝である。余裕たっぷりで判定を待った。結果は3対1。圧敗だった。何でやねん。彼女は「お兄さんのもおいしいよ」と言う。そんなの本心のはずはない。得意顔をしているから、うそが丸見えなのだ。
彼女はワインが好きだ。僕はほとんど飲まないから、ワインのことは知らない。だから、無難なフランスのワインを用意しておく。するとある時、「フランスは核実験をするから、ボルドーもブルゴーニュも飲まない」と言い出した。面倒くさい人間である。
それではと、ドイツのワインを用意しておいた。すると、「最近はフランスのも飲むのよ」。勝手に生き方変えるな!
先日、また夫婦で現れた。前夜は大阪の彼女の実家で、母親に料理を作ったという。ちょっと嫌な予感がよぎった。
僕の家は京都府の1番南にある。山城タケノコの産地だ。ありがたいことに、ミニバイクで10分足らず走れば、地元産品の店があり、そこでは朝採りタケノコを売っていて、発送する人も多い。
時は春。だとすれば、タケノコだ。料理の腕はなくても、タケノコ自体がおいしいので、これで勝負をかけた。定番の若竹煮ともう一品。ついでにコゴミも買ってきて、天ぷらにした。メーンはサイコロステーキ。駅2つ離れた近鉄大和西大寺駅のそばに、福寿館という精肉屋さんがあって、僕はそこの肉が好きだからだ。万全の構えである。
食べ始めたとたん、悪い予感があたった。彼女は言い放った。「ゆうべ、タケノコを使ったのよ」「何、作ったの?」「若竹煮」「エーッ」「コゴミも」。これは嫌がらせ以外の何物でもない。
タケノコ料理のもう一品が、梅マヨネーズ和えだった。確かテレビで見て、簡単そうだったから作ってみた。タケノコをゆでる。ゆでるのが面倒くさかったら、水煮を買ってきてもい良い。それを薄切りにする。梅干しとマヨネーズをまぜて和える。皿に盛り、カツオ節をたっぷりかける。
敵はこれにもあまり手をつけず、サイコロステーキばかり食べては、イタリアの赤ワインをガブ飲みしていた。今から、次に来た時の作戦を考えておかねば。(梶川伸)
更新日時 2014/04/21