編集長のズボラ料理(85) ホタルイカのサンショウ煮
人間は矛盾に満ちている。僕は常々、「手間をかけるのは大事だ」と言っている。どうも世の中は、手間をかけずに、楽な方へ楽な方へと流れていると思うからだ。
ところが僕は、「ズボラ料理」という、手間をかけない手抜き料理に走っている。自己矛盾だ。どうしよう。
僕はホタルイカが好きで、春になると好んで食べる。富山に行った時にはホタルイカ博物館にも行ったし、土産にホタルイカの黒づくりも買った。確か、富山には取材で行ったような気もするが、それよりも昼ご飯で食べたホタルイカ御膳の方をよく覚えている。
ホタルイカでは最近、課題が1つ浮上した。目を採り、骨を抜くかどうかということだ。以前は両方ともつけたまま食べていた。ともに小さいので、取るのは面倒くさい。それに食べても、それほど気にはならなかった。ズボラ料理人としては、当然である。
友人の家で飲むために、デパートで出始めのホタルイカを買って持って行った。何と、友人は目と骨を取ってテーブルに乗せた。衝撃が走った。「何で取るの?」「取った方がおいしいじゃない」「確かに」。その時から、矛盾を抱えることになった。
ある道の駅で、「ホタルイカのサンショウ煮」と書かれたものを売っていた。名前の通りなら簡単そうなので、作ってみることにした。スーパーでホタルイカを買ってきた。うちの小さな庭には、小さなサンショウの木がある。うまい具合に、イカナゴが原料の魚醤(ぎょしょう=しょうゆ)も残っていた。すべて揃っている。
問題は目と骨を取るのかどうか。悩みながら、とりあえず目は取った。これは簡単だからだ。その勢いで、骨にも挑戦した。小さいので取りにくい。骨抜きか毛抜きがあればいいのだが、それがない。親指の爪と人差し指の指先で骨を引っ張り出すことにした。手間のかかる作業を嫌々続ける。やがて、爪で押さえられる指先が痛くなる。矛盾の克服には痛みが伴うことを知った。
作り方は簡単。ホタルイカを砂糖、しょうゆ(または魚醤)、みりん、木の芽(サンショウの若葉)で煮る。つくだ煮ではないので、あまり濃い味にしない方がよい。
食べた翌日も指先の痛みは止まらない。さっそく100円ショップに行って、骨抜きを買った。矛盾を解決するには、これしかない。(梶川伸)
更新日時 2014/04/30