このエントリーをはてなブックマークに追加

編集長のズボラ料理(72) 乾煎りサクラエビのコショウ・レモン味

焦らず、ゆっくりと乾煎りする

 昔の新聞記者には、変な人が多かった。どんな職場でもそうなのかもしれないが、新聞社の先輩は、変人の確率が高かったような気がする。
 新聞記者は入社すると、たいていは地方で数年、修行する。僕の場合は和歌山だった。4年たって、大阪の社会部に転勤した。地方育ちのペッペーの記者は、緊張するのである。個性の強い優秀な記者が社会部にはそろっている、と思うからだ。そのうち、癖の強さは正解だが、みんなが優秀かどうかは疑問だ、と感づく。そして、僕も個性だけで生きていく記者になってしまった。
 社会部に加わって、最初は警察署取材チームの一員になった。その時のキャップが実のおかしかった。右手をピストルの形にして僕の方に突き出し、「バーン」と口で撃つ。キャップのすることなので、僕も弾丸が当たったまねをせざるを得ない。そこで、崩れ落ちる格好をする。時には、弾をよけた格好をする。それを、何十回繰り返したことか。
 そのキャップは時折、シャーロック・ホームズになる。ホームズのトレードマークの鹿撃ち帽をかぶってくるのだ。前にも後にも、つばがあるやつだ。耳当てがついていて、それは両側とも折り返し、リボンで頭の上に留めてあった。そんな帽子をかぶって仕事をしている人は、キャップの前にも後にも見たことがない。
 キャップがホームズ・スタイルとなって、「かき揚げを食べに行こう」と誘ってくれた。グループ4人で、1杯飲んだ後だったから、2軒目となる。行ったのは大阪・淀屋橋の店だった。ホームズはなじみの女将に注文した。「ビールと、かき揚げ1つ」
 「エッ」と思わず声をあげそうになる。それを抑えてビールを飲む。なかなか、かき揚げが出てこない。やっと姿を見せて、今度は本当に「エッ」と声をあげた。たった1個だが、直径が20センチ以上あり、しかも分厚い。それを4等分して食べた。具はいろいろなものが入っていたが、古いことなので、覚えているのはエビだけなのが残念だ。
 先日、久し振りに一緒に酒を飲んだ。初めて撃たれてから40年近くがたつ。会うと、また撃ってきた。僕もきちんと対応し、手を胸に当て、「ウッ」とうめいた。パブロフの犬である。
 かき揚げといえば、サクラエビが好きだ。しかし、かき揚げは難しく、成功率が低いので、今回はやめた。フライパンにサクラエビ入れ、コショウをふって、弱火で乾煎(からい)りする。皿に盛って、レモンをかけて食べる。ご飯の友にも良いが、僕はこれをつまみに、ゆっくりと酒を飲む。「バーン」。何だ、テレビか。(梶川伸)

鹿撃ち帽 編集長のズボラ料理 シャーロック・ホームズ

更新日時 2014/02/09


関連地図情報

関連リンク