編集長のズボラ料理(59) カブとカニのスープ
岡山出身の友人から、ゴボウをもらった。ゴボウと書くのは、正確ではないかもしれない。包んであったラップには「ごんぼう」とあった。岡山県井原市芳井町、明治ごうぼう村の産との表記もあった。
懐かしいなあ、この響き。僕のおふくろも、そう言っていた。いや、正確には「ごんぼ」と言っていた。広島出身なので、似たような呼び方をしていたのだろうか。いや、昔はどこでも、よく聞いたような気がする。今は耳にしなくなったなあ。
僕は子どものころ、野菜が嫌いだった。大人になって、野菜も食べるようになり、年をとるに従って、嫌いから好きへと大逆転した。そんな僕の食べ物史の中で、最後まで嫌いで残ったのはピーマンで、ゴボウは第2位を誇る。3位にはキュウリとレンコンが同着で入賞した。
子どものころ僕は、ヒョロヒョロと脊が高かった。そのため一時期、ゴボウというあだ名をつけられた。いや、ゴンボだったかもしれない。古いことなので、どっちだったかの記憶はゴボッと抜けてはいるが、そんなこともゴボウ嫌いに影響していたのかもしれない。
ゴボウが好きになる決定的な出来事があった。毎日新聞に入ってしばらくしたころ、ある店の昼食を取材した。その日のメニューにゴボウの煮物があり、作り方を聞いた。いたってシンプルで、水で煮るだけだと言う。だしも調味料も使わない。「ゴボウは自分でだしを出し、そのだしをまた吸い込む」と教えられた。偉いやつだ、ゴボウは。と思った瞬間、僕の中の評価は一気に高まり、食べ物偉いものランクの上位の食材をゴボウ抜きにしてしまった。好き嫌いなど、単純なものである。
おふくろは、ナスビという言い方もしていた。印象に残っている料理があるわけではない。ただ、昔の人間らしく、漬け物さえあれば良く、中でもナスビのぬか漬け好物だった。カブラという言い方もよく聞いた。これも思い出すのは、ぬか漬けである。
今はナスビはナスに、カブラはカブにと、1つ文字が縮んでしまった。何でもかんでも短くするのが、今風なのだろう。マクドナルドなど、3つも縮めてしまうのだから。ただ、僕も古い人間のせいか、ぬか漬けにはナスやカブでは物足りない気がする。
カブラの皮を厚めにむく。最近の言い方をもじれば、一回り縮めてカブにする。それを縦4つに切る。コンソメスープの素を水で溶き、カブを入れて煮て、カブのスープを作る。カブが柔らかくなったら、ほぐしたカニの身を入れ、塩を加えて、最後にカタクリ粉でとろみつける。とろみをつけるので、水の量は少なめにする。これは「カブラのスープ」より「カブのスープ」の方が似合っているカニ。(梶川伸)
更新日時 2013/10/31