編集長のズボラ料理(60) ネギ巾着
ネギは大好きだ。日本のハーブの中の王様は何か、と言えばネギに決まっている。
うどんには、絶対といってよいほど、ネギがいる。ほんの少しでいい。丼の中で、点々と緑が浮かんでいればいいのだ。それなら、刻んだホウレンソウでもいいじゃないか、となるが、ネギには代役はない。
つい、ネギを買い忘れている時がある。代役がきかないのだから、これほど恐ろしいことはない。そこで僕は、買ってきたネギが余った時に、それを刻んで冷蔵庫の冷凍室に保存している。
それも切れたらどうなるか。買ってきたネギの根を、うちに小さな庭に植えている。ネギは強いので、植えた根から伸びてくる。切羽詰まった時は、刈り取って使う。
それも枯れたらどうするか。心配でたまらない。その時は、僕の家のすぐ前がイオンなので、買いにいく。イオンまで1分、入手してレジ通過までに1分半、帰りは早足だから1分15秒。計3分45秒でネギはまな板に乗るから、何とかなる。でも、夜中だったら店が開いてない。どうしよう、心配だ。
時々、ネギが可愛そうだと思う。ネギは控えめだから、主役になることがほとんどない。
高松から友人が来て、紅葉を見たいというので、京都・北野天満宮に連れて行ったことがある。京都駅からタクシーに乗ったのだが、まず腹ごしらえをすることになり、運転士さんに天満宮の近くのおすすめの店を聞いた。教えてくれたのが、「ふた葉」といううどん屋だった。「讃岐うどんの本場から来ているので」と抵抗したのだが、運転手さんは頑固だった。「そこのネギうどんを食べなさい」
その店しか教えてくれなかったので、仕方なく行った。壁にかかったメニューの板を見ると、ネギうどんがない。タクシーの運転手さんに、食べろと言われことを告げてみた。店の主人ば「まだ、やってないんです」と言って、1つだけ字の書いていない木札を引っくり返した。裏側、本当は表側に、ネギうどんと書いてあった。
「せっかくなので、食べられませんか」とお願いした。答えがふるっていた。「おいしくなくても良ければ」
店で使っていたのは、京都・鷹峯(たかがみね)のネギだった。九条ネギの系統だが、太くて白身が長い。ぶつ切りにして軽く煮た後、うどんに乗せ、すり下ろしたショウガを添えるだけの、しごく単純なものがネギうどんだった。「寒くなって、中にヌルヌルの『鼻たれ』が入ると、ネギが軟らかくて、おいしくなる」。主人はそう説明し、「霜がおりるころに、木札を表にする」と話した。「寒い時期だけ、ネギがうどんを抑えて、主役になる」と。
今回はネギに主役になってもらう。青ネギを大量に輪切りにする。細い塩コブ、干したアミエビ、みそをそれぞれ少々、ネギに混ぜておく。油揚げの端を切って袋状にし、中にネギを詰め、つまようじで縫って入口を閉じる。その巾着を、だし、砂糖、しょうゆで煮る。九条ネギ、鷹峯のネギでなくても、十分に主役になれる。(梶川伸)
更新日時 2013/11/02