編集長のズボラ料理(58) チーズ鍋
チーズは大人の味だと思う。子どものころは、そもそもチーズなど口にすることなどなかった。だから必然的に大人の味だということになる。
会社に入って、先輩記者にスナックなる場所に連れていってもらうと、クラッカーとチーズが出てきた。店の女性が勧めてくれる。大人の雰囲気を実感し、なぜか笑顔を見せながら食べるのである。
やがて、チーズの味に慣れてくると、青カビのチーズがいいだの、とろけるチーズを乗せてピザトーストがうまいなどと言って、大人を気取るようになっていく。
ケーキもそうだ。「甘ったるいケーキはお子様向き」と切り捨て、ことさらチーズケーキを選んでいた時期もあった。その結果、結婚披露宴の引き出物のお菓子をチーズケーキに決め、小さなケーキ屋に頼み込むところまでエスカレートしてしまった。
今でも、「京都・北山のマールブランシュが好みだな」「西宮市・甲陽園のツマガリのものはちょっと変わっているね」などと口にして、大人を演出する。チーズのせいで、すっかり嫌なタイプになってしまった。
チーズフォンデュもまた、大人の雰囲気がプンプンする。たかがパンを鉄串にさして、熱くしたチーズをつけて食べるだけである。ソーセージやエビといったものもチーズをつけて食べるが、基本はパンで、実は安い食べ物なのだ。それでも、長い串の先についているパンが小さく、その上品さが大人っぽい。
随分と昔だが、僕の後輩から恋愛相談を受けたことがある。好きな女性がいて、結婚したいと思っているのだが、どうも相手が煮えきらない。そんな内容だった。これは、先輩としてほってはおけない。その女性を呼び出して、真意を聞き出すことを約束した。
2人で行ったのがチーズフォンデュの店だった。個室である。僕は単刀直入に、結婚する気があるのかどうかを聞いた。相手の答えもストレートだった。「好意はもっているが、結婚するつもりはない」。完敗である。その答えの後は、あまりしゃべりもせず、ただひたすら大人の味を口に運んだ。
コンソメのスープを作っておく。丸いカマンベールチーズを6等分にして、鍋の中心に置く。ハクサイを大き目の短冊に切り、ベーコンも適当な大きさに切っておく。ハクサイを立てて、チーズの周りを何重にも囲んでいき、ベーコンを挟みながら鍋を埋める。つまり、バームクーヘンのような形(丸い穴の部分がチーズ)にする。スープを注ぎ、塩とコショウをふる。鍋のふたをして、弱火で蒸すような感覚で煮る。僕は便利だから、タジン鍋を使うが、量があまり入らならないので、大人数には適さないかもしれない。(梶川伸)
更新日時 2013/10/13