編集長のズボラ料理(30)ウナギと豆腐の炒め煮
「ウナギ」という響きに、僕は極めて弱い。かば焼きのにおいのパワーのせいだろう。特に店先で焼いている時の引力は強烈だ。においを風に乗せるのが店の作戦だと分かっているのだが、鼻と足が条件反射を起こし、まんまと餌食になる。さらに、「高い」というイメージが引力を増すが、こちらは決断力を鈍らせる。
僕は1970年に大学生になった。と同時に、親父が大阪から東京に転勤になり、おふくろもついて行った。大阪の家には弟と2人で住み、貧しい食生活を送った。大学入学当時、学生食堂で1番安いメニューは15円の素うどんで、それを2杯頼んで昼食にした。
1カ月に1回だけ、楽しみがあった。家の近くの食堂で、ウナ丼を食べるのだ。とはいっても、わずか数切れのウナギしか乗っていない。下手をすると、ウナギを食べ切ってしまい、最後はご飯だけになってしまう。そこで、両者の減り具合を綿密に計算し、うまく同時になくなった時、1カ月分の満足感が広がった。
たまに東京に訪ねて行くと、親父はウナギ屋に連れていってくれた。しかもウナ重で、1匹が丸ごと乗っていた。そして、「ウナギは大阪は腹開き、東京は背開き」と教えてくれた。
毎日新聞旅行の遍路旅の案内人をしているが、参加者の中に粋な江戸っ子を気取る人がいる。高知市での昼食場所に、屋台村のような「ひろめ市場」を設定した時のことだ。カツオやウツボのタタキなど、高知名物の魚料理が食べられるのだが、ざわざわしているので、念のためウナギ屋「うなぎ屋せいろ」も用意しておいた。江戸っ子もウナギの店を選んだ。そこで、本領を発揮した。ウナギの開き方を聞いたのだ。腹開きと知り、別の店を探すという。面倒を見きれず、ほっておいた。後で何を食べたのか尋ねると、モスバーガーだという。高知まで行って、まあ。どこが粋やねん。
今回は少ないウナギで量を増やす。たれのついたウナギのかば焼きを買い、短冊に切る。豆腐を水切りして、適当に切る。ネギをぶつ切りにする。たれは器に入れ、しょうゆ、砂糖、みりんを加えて増量する。フライパンに油をひき、豆腐とネギを炒める。ウナギも後から加え、増量したたれも入れて炒め煮にし、最後にカタクリ粉でとろみをつける。(梶川伸)
更新日時 2012/06/26