編集長のズボラ料理(612) ユズ(レモン)コンニャク
その昔、徳島県に住んでいた。スダチの産地で、すっかりとりこになった。
みそ汁に入れるのが好きになった。最初は皮を少し切り取っで浮かべたり、皮をすり下ろしたりしていた。それだけで、一段ランクアップする。しかし、徳島にはスダがふんだんにあるので、そんなチマチマしたことをしていたらよそ者バレバレで、徳島社会には溶け込めない。そこで、贅沢に絞って使うようになった。1回に1個。小さいとはいえ、豪勢な使い方だった。
スダチを絞って瓶に入れたものも買っていた。便利からだ。しかし、どうも違和感があった。香りが弱い。やっっぱりスダチの実を絞ってすぐの方が、圧倒的にいい。スダチは香りなのだ。
そんな時、木頭村(現在は合併で那賀町)に取材に行った。那賀川にダム計画があったのだが、村長らが反対して、計画を押し留め、その話を聞くためだった。取材が終わると、名物だと言って、ユズを絞って瓶に詰めたものをもらった。村長作戦まんまと乗って、木頭村民の思いを力を込めて描いた。
ユズ酢7はうまい。スダシは香りだが、ユズは味。それ以降はスダチよりユズ派に転向した。いい加減なものだ。
高知県では馬路村がユズで村おこしをし、「ごっくん馬路村」ですっかり有名になった。隣は北川村で、ここもユズの産地だが、あまり知られていない。僕はユズ派だから、バス遍路旅の先達(案内人)をしている時、遍路コースから大きく7外れるが、この2つの村の温泉宿には何度か泊まった。「なるべく四国を知ってもらいた」と理由をつけたが、本当は僕がユズが好きだっただけのことだった。
2つの村はライバルだが、馬路村には余裕がある。「ごっくん」の一言の力が強いのだ。いかにもおいしそうに思うではないか。北川村は「馬路村のユズは接ぎ木。うちは種から育てる実生(みしょう)」とアピールする。しかし、ゴックンで北川村も飲み込まれた感がある。
いっそ、郷土の幕末の志士、中岡慎太郎にあやかって、「慎太郎も飲んだ」としたらどうだろう。香川県の酒「凱陣(がいじん)」のうたい文句「高杉晋作も飲んだ」のもじりである。しかし、慎太郎も坂本龍馬には及ばないのが、悲しいところ。
コンニャクは両面に包丁で切れ目をたくさん入れる。ユズの皮(今はユズのない季節なのでレモンの皮で代用)を切り取り、みじん切りにし、それをコンニャクの切れ目に入れる。コンニャクは食べやすい大きさに切る。鍋にだしを取り、砂糖、酒を加えてコンニャクを煮て、甘みがついたら、しょうゆを加えてジックリ煮る。皿に盛り、木の芽を散らす。
龍馬の人気は慎太郎を大きく上回る。高知県の観光PRのキャッチコピーは、オードリー・ヘップバーンも真っ青になる「リョーマの休日」なのだから。(梶川伸)2022.07.20
更新日時 2022/07/20