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編集長のズボラ料理⑧ 焼きおにぎりの卵スープ

おりぎりは焼きでも、揚げでもオーケー

 1年に1回だけ会う女性がいる。ロマンチックな七夕伝説のようだが、相手は亡くなった大先輩の奥さんである。会うのは7月ではなく、1月9日と決まっている。宵えびすの日だ。
 養護施設で暮らすような家庭に恵まれない子どもたちに、里親や養親を見つける運動がある。家庭養護促進協会が主体となり、毎日新聞が「あなたの愛の手を」という名前で半世紀近くにわたり、キャンペーンを続けている。大先輩は協会の設立時からかかわった。
 協会は活動資金を得るため、えべっさんの3日間、大阪市・今宮えびすの参道に露店を出して、福あめを売らしてもらっている。大先輩が亡くなった後、奥さんは岡山県倉敷市に住んでいるが、宵えびすの日にあめ売りの手伝いに出てくる。京都にある大先輩の墓に参ったあと、半日ほど「お土産に福あめ、どうですかあ」と声を上げる。夫の供養でもある。
 僕はその日の夕方、手伝うようなふりをして露店をのぞく。やがて奥さんのボランティアの時間が終了する。すると、決まって近くの居酒屋さんに一緒に行くことになる。なぜか、奥さんが支払いをする。僕はいつも甘えて、食い逃げである。
 その居酒屋さんは山形県出身の女将(おかみ)がやっていた。初めて入った時、突き出しに小さな塩にぎりが出てきて、びっくりした。と同時に、山形県人は米に誇りを持っていることを知り、その店で飲むのが恒例になった。とは言っても、奥さんは飲まないので、飲んで食べての僕は、丸もうけである。
 ご飯が少しだけ余った時に、焼きおにぎりの卵スープが良い。塩を少なめに使って、小さな三角にぎりを作る。ワカメのふりかけがあれば、混ぜてにぎるとさらに良い。フライパンに油を軽くひき、おにぎりの両面を焼く。茶碗におにぎりを入れ、上から卵スープをかけて出来上がり。卵スープはインスタントでも良いが、僕はコンソメと和風だしのもとの両方を使い、塩やコショウで適当に味をつけて作る。
 和歌山県紀の川市に、華岡青洲の里がある。地元の食材を中心にしたバイキング・レストラン「華」がその中にあり、昼食に入ったことがある。バイキングの一品に、揚げおりぎりの卵スープがあった。焼きおにぎりの卵スープは、おにぎりを素揚げにする代わりに油で焼いただけのこで、言ってみればパクリである。(梶川伸)=以前掲載したものを新聞用に書き直しました

花岡青洲の里

更新日時 2011/02/10


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