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編集長のズボラ料理(802) 豆腐のしょうゆこうじ焼き

焦げないように                                              

 高松市にいる歌人の女性は日本酒を見ると、「こめこめこうじ」というのが口癖になってまった。
 僕が高松勤務だった時、会社に訪ねて来た。新聞社とはいい加減な職場で、日本酒がいつも倉庫にある。夜になると、しばしば職場で飲む。いや、毎日のように。彼女の訪問は夕方だったので、ちょっと時間は早いが、職場での飲み会になった。
 職場の1升瓶は、いつも凱陣と決まっていた。香川県琴平町の酒蔵、丸尾本店に酒だった。「高杉晋作も飲んだ」のキャッチコピーが気に入って、いつもこの酒を置いていた。
 飲み始めて、彼女はほとんど日本酒を飲まないことがわかった。僕にとっては、しめしめである。歌の素養はないので、その話題は避けたい。日本酒ならそれなりに知っているから、話をそちらに誘導した。
 会社にあった凱陣は純米酒だった。ほかの酒との違いを簡単に説明した。そして、原材料欄を示し、「米と米麹で造っている」と偉そうに話し、「こめこめこうじ、だけ」と教えた。口癖は、その時の影響である。
 しばらくして、僕は大阪に異動になった。彼女は、一弦琴の演奏家でもあった。岡田准一主演の映画「燃えよ剣」でも、演奏シーンが撮影された。
 彼女は時々、お弟子さんを連れて、京都や奈良に出かける。僕は京都と奈良の府県境に住んでいるから、どちらもよく知っていると勘違いしているようで、案内を頼まれることがある。
 土産はいつも、日本酒である。会社の宴会がきっかけとなったので、それもわからないではないが、僕がよほど日本酒好きだと思い込んでいる節がある。正解である。そして必ず言う。「こめこめこうじ、を選びましたよ」。そのたびに僕は、寿限無の「やぶらこうじのぶらこうじ」を思い出し、「またか」と思う。もちろん、ありがたくいただく。好きなもんで。
 今回は米こうじではなく、しょうゆこうじを買ったので、それを使ってみた。豆腐を水切りして短冊に切り、しょうゆこうじを全部の面についけて、しばらく置く。アルミホイルの上に並べ、オーブンで両面を焼く。
 映画「連燃えよ剣」は見に行った。彼女から連絡がきたからだ。「短い時間」と言われていたので、目を皿のようにして見ていたが、見逃してしまった。彼女には「映画を見た」としか言っていない。見逃したことを伝えると、こめこめこうじが届かくくなると困るからだ。(梶川伸)2025.05.25

更新日時 2025/05/23


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