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編集長のズボラ料理(255) タチウオの天ぷら

三枚のおろせる人は、タチウオさえあれば、当然ながらいつでも天ぷらができる

 毎日新聞に入社して、初任地は和歌山だった。長い海岸線を持って持った県なので、魚とのかかわり深い。
 新聞記者は最初、警察署を担当する。当時はまじめだから、夜も警察に入り浸った。早く顔と名前を憶えてもらうためだった。場合によっては、警察のある部屋に泊まった。「事件があったら、起こしてほしい」とお願いしておいて。
 なじみになると、いいことがあった。宿直の署員が交代で署員が夜食を食べに行き、それに誘ってくれた。行ったのは魚市場の横のく一膳飯屋。夜が明けるころから魚市場に行く人のために、夜中から開く店だったく今では考えられないことだが、いつも警察の車に乗せてもらった。半世紀近くも前のことだから、時効だろうが。
 一膳飯屋では、イワシの天ぷらかアジのフライを頼み、それにご飯とみそ汁。夜食にはちょうどよく、その味が未だに忘れられない。
 おかげで署員とは仲良くなった。事件があると、サイレンを鳴らしている警察車両のすぐ後につける。一般の車は止まるので、スイスイ走れた。これも今では考えられない。時効だから書いたが。
 それほど仲良くしてもらったが、特ダネをもらった記憶はない。イワシの天ぷらをもらったくらいだ。
 和歌山でちょっと驚いたのは、正月だった。魚はタイではなく、カツオの塩焼き。出世魚だからで、小さいものを1人が1匹ずつ食べる。ただし、パサパサしていて、僕はあまり好まなかった。
 ウツボも苦手だった。たいていは飴煮のようにしてあった。しかし、海の中の姿を思い出して、あまり手が出なかった。クエは高くて、手が出なかった。
 酒を飲みに行って、よく手が出たのはタチウオの塩焼きだった。銀色の皮が薄いので香ばしく焼け、柔らかい身との組み合わせが絶妙だった。
 以後、半世紀近くにわたって、タチウオ好きは継続している。遍路で愛媛県宇和島市に泊まった時、郷土料理「ほづみ亭」で夕食をとった。タチウオを竹に巻いて焼いた料理が出てきて、これには感激した。そこで、先達(案内人)をしている遍路旅で次に宇和島方面に行く時も、ほづみ亭を組み込んだ。参加者のことよりも、自分の好みを優先させてしまう身勝手な先達だと、我ながら思う。
 自宅でも、タチウオは切り身を買ってきて焼きにする。三枚におろすなどの腕を持っていないから、料理が限られるのだ。ところが時々、自宅近くのスーパー「近商ストア」で、三枚におろしたうえ、天ぷら用に切って売っている。これを逃す手はない。
 タチウオの切り身の小麦粉をまぶす。小麦粉に少しコーンスターチを加え、卵と水も入れて混ぜる。これを衣にして揚げる。身の柔らかいホクホクとした食感が好きだ。
 天ぷら用に用意されたタチウオを売っていない場合はどうするか。あきらめるだけと、決めている。(梶川伸)

更新日時 2017/04/06


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