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編集長のズボラ料理(248) サーモンのサンショウ焼き

味が物足りなければ、少ししょうゆを落とす

 サンショウには力がある。3人がサンショウだけで30分も議論してしまった。サンショウは小粒でも、持続力があるのだ。
 ビールとまっこりを飲んだ後だから、口が軽くなっていたのは間違いない。しかし、何でサンショウの話になったのかは覚えていない。酔ってしまえば、そんなのはどうでもよくて、ただしゃべりたいだけなのだ。
 3人はサンショウ好きで共通していた。しかし、サンショウの実を買ってきた後、枝から実を切り離すという、小粒のサンショウの中でもさらに小粒の話になって、3人のサンショウに対する思いの強さに差が出た。
 この作業について、1人は「面倒くさい」と、愛情を微塵も感じない突き放した言い方をする。僕は即座に「別に面倒くさくない、そのくらいのこと」と、サンショウ・ラブを全面に出して反論した。
 勝敗が僕に傾き始めたころ、もう1人が感情を込めずに言った。「枝なんか取らないけど」
 この一言はインパクトがあった。ありのままのサンショウを受け入れる方が、思いは強いのではないか。枝が口に残るくらい、我慢するのがサンショウに対する礼儀かもしれない。佃煮にしてしまえば、あまり気にならないし。頭の中が混乱した。
 混乱を収めてくれたのは、七味トウガラシだった。「東京の七味はサンショウの量が少ない」「長野の善光寺もそうだ」「七味は京都の清水寺の近くの店がいい」
 さらに各論に入っていく。「僕は生のまま冷凍する」「やっぱり、煮てからやろう」「それは、佃煮にしておいてから」。3人が好き勝手なことを言って、サンショウはずっと尾を引いた。そこは2軒目のショトバーだったが、サンショウがあったので、つまみは注文しなかった。
 その場で僕が俎上(そじょう)に乗せたのは、サーモンのサンショウ焼きだった。サーモンと鮭(サケ)の違いを言い出すと、サンショウ以上に持続力があるので、やめたが。
 サーモンの切り身を用意する。軽く塩をふり、フォークで両面を突き刺す。フォークの穴にサンショウの実を詰める。両面に軽く小麦粉をまぶす。フライパンでバターを熱し、サーモンをソテーする。
 昨年の春に買って冷凍したサンショウが、まだ残っている。色がちょっと茶色みを帯びてきた。ピリリの辛味も弱くなった。持ち前の持続力も、1年は続かないのかもしれないなあ。(梶川伸)

更新日時 2017/03/07


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