編集長のズボラ料理⑤ カキの揚げ出し
冬の味の楽しみの1つはカキだろう。池田市に、カキのシーズンだけ店を開く「かき峰」がある。メニューは5040円のコースのみ。ちょっと高いが、食べたくなったら止まらない。遍路仲間の女性2人を誘って行った。
酢ガキ、カキフライ、土手鍋、カキ飯。広島から取り寄せているカキをたん能した。女性の1人はこの店の体験者で、「カキ飯は残るから、パックに入れてもらうのよ」と、指示を出した。
もう1人が「カキオコを食べに行こう」と言いだした。岡山県備前市日生(ひなせ)のカキのお好み焼きのことである。日生のお好み焼き屋10軒あまりが街おこしとして、冬の時期に焼いている。
その提案はすぐさま遍路仲間に伝わり、2010年の年末、12人で出かけていった。年配者が多いので、当然のようにJRの青春18切符を使った。1日2300円相当で、普通、快速が乗り放題。
日生駅に着くと、雨が降ってきた。しかし、大阪のおじちゃん、おばちゃんたちは、そんなものにはめげない。言い出しっぺの女性を先頭に、一目散に歩く。何せ彼女、18切符+カキオコのベテランで、4年連続5回目の出場なのだ。1週間前にも友だちと行ったという。店は「きまぐれ」。彼女は「カキがドバーッと乗っているから」と、自信満々だった。
店に着いて驚いた。わずか5席。満席のうえ、店内で待つ人、外で並ぶ人、持ち帰りを頼む人がいる。覚悟を決めて、傘をさして並んだ。
今度は店の人が驚いた。妙な団体が並んでいるからだ。しかも、「棺おけに片足突っ込んでいるんで、冥土の土産に食べに来ましてん」と冗談を飛ばすおっちゃんまでいる。このひと言はきいた。
店の奥にカラオケルームがあった。そこで待たせてくれたのだ。しかも、店の大将が菓子まで出してくれ、時間待ちの話し相手になってくれる。地元のおばあちゃんグループが歌いにきたが、「お好みがまずくなるから」と、歌うのをやめて、話の輪に入ってきた。
1時間半ほど待って、順番に食べ始めた。確かにドバーッだった。僕は数えてみた。12個だった。しかし、一定しているわけではない。「お好みをひっくり返す時、カキが飛び散って、ほかの人のお好みに入った」と、おばちゃんたちはうるさい。全員が食べ終わるまで2時間半。うまかった。1人前900円。
さて、カキの揚げ出しである。高松市で仕事をしているころ、よく世話になった小料理屋「遊(ゆう)」のメニューにあった。
カキに小麦粉をつけて揚げ、椀(わん)に入れる。濃いだしを取り、しょうゆ、砂糖、みりんで味付けをし、カキの上からかける。大根おろしを乗せ、細く切ったユズの皮をあしらう。つまり、揚げ出し豆腐のカキ版である。(梶川伸)
=地域密着新聞「マチゴト豊中・池田」第12号(2011年1月6日)
更新日時 2010/12/22