編集長のズボラ料理(71) 広島菜漬けのかき揚げ
子どもが小さいころ、夏になると毎年のように大阪から車を飛ばして、和歌山県串本町の橋杭岩海水浴場に行った。今ふと、串本までなぜ遠出をしたのか思い返してみるのだが、あまり覚えていない。遠浅だったのと、旅行の気分を味わえたからかもしれない。
昼ご飯は串本の中心部まで戻り、すし屋に行った。とはいっても、新鮮な魚のすしを食べたわけではない。目的は「めはりずし」だった。ご飯を俵型に握って、高菜の浅漬けで包む郷土料理だ。1個100円くらいだったと思う。それを1人2個ずつ注文する。
安いので、店のカウンターで食べるのは気がひける。だから持ち帰って、海水浴場で食べる。娘が好きで、泳ぎに行くたびに、それをねだる。僕は「じゃあ、買いに行くか」と父親ぶって言い、恩をきせる。安上がりな子どもである。
高菜、野沢菜とともに、日本三大漬け菜と言われるものに、広島菜がある。僕のおやじ、おふくろの出身は広島市だったので、広島には親類が多い。冬になると、よく広島菜の漬物を送ってくる。昨年12月の初めにも、プラスチックの四角い入れ物が2つも届いた。正確に数えなかったが、1つの容器に、8株も入っている。
これは大変である。もちろん、近所にもおすそ分けはしたが、それでも大量に残る。漬け物だから、1度にたくさん食べるわけにはいかないが、せっせと食べる。高血圧のため、医者には塩分控えめを申し渡されてはいるが。食べては、血圧計を腕に巻く。目前の血圧より、遠くの親類である。
広島菜の難点は、ご飯のお供以外に、食べ方のバラエティーが乏しいことだ。僕は漬け物とご飯の組み合わせが好きだが、1週間や10日も連続して食べていると、さすがに飽きてくる。
それは計算ずみで、送られてきた当初に、4株は冷凍した。2カ月たって、容器に入ったままのものは、1株まで減ったが、だんだん酸っぱさが増してくる。そうなると、1回に食べる量が減り、僕の予想では残り1株を食べるのに少なくとも10日はかかる。
そう試算した直後、テレビをかけていると、野沢菜のかき揚げという言葉が耳に入ってきた。これは地獄に仏、渡りに船、広島菜にかき揚げである。作り方の場面を映していたわけではないが、かき揚げにすればいいだけのことだと、細部はお構えなしで作ってみた。
広島菜は茎の部分を中心にして細く切る。タマネギも少しだけ千切りにして加える。小麦粉とコーンスターチを混ぜて水で溶く。それを衣にして揚げる。最初に作った時には、タマネギを入れ過ぎて、タマネギの味が勝ってしまったが、それでも娘は気に入ったようだった。安上がりな娘である。
問題はかき揚げにすることによって、広島菜を大量に消費するのは難しいことだ。冷凍しているものもある。せっせと食べないと、また広島菜が2パック送られてくる。本当は野沢菜のかき揚げの方がおいしいのかもしれないが、僕には野沢菜に浮気するような時間的余裕はない。(梶川伸)
更新日時 2014/02/04