編集長のズボラ料理(66) 鯛と柿のナガイモあえ
「お四国病」という言葉が、遍路の仲間ではしばしば使われる。遍路や、四国・四国の人の優しさに心を奪われ、何度も行きたくなることを言う。僕など、もう慢性状態で、医者からも見放されそうである。
「お四国病」には「お」がついている。お遍路さんや四国の人は同じように、遍路のことを、親しみを込めて「お四国さん」という。いいなあ、この響き、この温かみ。
僕が先達を務めている毎日新聞旅行の遍路旅(ツアー)でも、繰り返し回っている人がいる。この遍路旅は、1回が1泊2日で、1シリーズは十数回で88カ寺を1周する。案内人の僕は、これまで自分の遍路も交えて、10週目から12週目を同時並行で回っているが、それを上回る人がツアーの参加者の中には何人かいる。
最も多い人は102回目だったから舌を巻く。若いころは歩いて何度も回ったそうだ。80歳近くになって、「ちょっと歩き、ほとんどバス移動」のゆるーい遍路に参加してきたのだった。ようやる。
遍路の楽しみの1つに、昼食がある。地元の食べ物、B級グルメをうたっているので、僕は普通のツアーとはちょっと違った昼食を考える。そうすると、遍路旅の参加者には、「食のお四国病」とでも言える人が出てくる。
愛媛県宇和島市では、昼食はたいていは「かどや」の「鯛(タイ)めし」にする。僕が好きだからというエゴイスティックなチョイスである。あるシリーズの時に鯛めしが気に入り、次のシリーズの際に、これを食べるために、この回だけ参加した「食のお四国病」の人が2人もいた。
鯛めしと言うと、釜飯を考える人が多いだろうが、宇和島では違う。鯛は刺し身である。だししょうゆに生卵を落とし、鯛と海藻をつけて、それをご飯の上に乗せて食べる。 見方を変えれば、鯛の刺し身入り高級卵かけご飯と言うこともできる。
単純なのだが、癖になり、一部の人は「食のお四国病」にかかってしまう。ただし、単純なので、ほとんどの人は自分の家で作ってしまうのだが。
今回は鯛を使う単純料理だが、鯛めしではない。鯛の刺し身と柿の薄切りを用意する。ナガイモをすり、だししょうゆとワサビで味をつけ、よくかき混ぜる。この3つを適当に合わせていただく。結局は、鯛はどう使ってもおいしい、ということだろう。(梶川伸)
更新日時 2013/12/23