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編集長のズボラ料理(51) ワサビパスタ

ワサビは結構たくさん入れるが、量は好みで

 四国遍路の先達(案内人)をしているので、遍路ツアーのプランも考える。気を遣うことの1つは昼食だ。できる限り、地元の食べ物を選ぶことにしている。
 普通のツアーの場合、何種類かのおかずがセットになった定食が多い。お客さんの好き嫌いに対応しやすいためだ。例えば、ハマチの刺し身は嫌いで食べ残しても、カボチャの煮物は食べられた、といった具合である。
 でも、いつもマグロの刺し身とエビの天ぷらでは面白くない。そこで、B級でも、D級でもいいから、その土地ならではのものを探す。かっこ良さそうだが、僕が食べてみたいだけのことである。
 これは、なかなか勇気がいる。特にめん類のような一発勝負が難しい。その食べ物が嫌いだと、ほかに食べるものがないケースも出てくる。しかも、小さな店が多いので、予約できないケースがほとんどだ。混んでいれば、並ばなければいけない。事前に昼食場所や内容を簡単に示したうえで募集しているので、覚悟しての参加だと思うのだが、反応は恐ろしい。
 徳島では徳島ラーメンが人気を集めている。そこで、巽屋というラーメン屋を何回か行程に組み込んだ。それには理由がある。最初に電話を入れた時に、訪れる日を告げ、ガイドブックに載っていた「肉・卵入り」をお願いした。店の主人の対応が気に入った。「うちはスープを売り物にしているので、できれば卵が入ってない方にしてほしい」。もうけの少ない安い方を薦めたわけだ。この一言で、店は決定決。
 巽屋に着く。僕と添乗員は自動販売機で券を買い、メンバーに渡して、席が空いたら座ってもらう。バスの中では「先生、先生」などと持ち上げてくれてはいるが、その実態は入場整理員である。やがて、それぞれにラーメン・ライスが届く。「何とシンプルな」。だいたいそんな顔している。そのくらいのリアクションなら、胸をなで降ろす。
 遍路ツアーは10回以上続くのがほとんどで、旅行会社は最初のうちは見栄えのいい昼食にする。リピーターとなって、最後まで参加してほしいと願うわけだ。僕は、2回目でラーメン・ライスである。参加者は家に帰って、「おいしいものを食べた?」と聞かれても、恥ずかしくて言えないかもしれない。でも、僕も参加者も、この試練を乗り越えれば、あとは怖いものはない。
 高知県須崎市では、鍋焼きラーメンの「まゆみの店」に行った。大阪の団体は初めてだった。小さな店で、外で並んでいる間に雨が降ってきた。この苦しさの中で、僕たちはさらに成長した。
 香川県では讃岐うどんの店に行く。讃岐うどんブームの引き金になった店の1つ「山越」を選んだことがあった。ここも勝負だった。昼ご飯時分に行くと、50人は並んでいる。多ければ100人を超える。うどんだから回転は速いが、初めての人はびくりするだろう。
 そこで作戦を考えた。店に着く直前に、ツアー代金の中から、1人の1000円ずつ返し、めいめいに好きな物を注文してもらった。自分でだしを注ぐセルフの店なので、少々トッピングをしても500円前後である。ということは、500円前後は残る。
 元はといえば、自分が払い込んだお金の1部なのだが、得をした気分になってしまう。15分ほど並んだが、怒りをぶつける人はいなかった。金の力は強い。作戦は成功した。ここでまた僕たちは成長し、辛いことを乗り越えれば、身入りがあることを知ることになった。と、お客さんにとっては迷惑な話である。
 さて、めん類の1つ、パスタの料理をズボラにつくる。生クリームを鍋に入れ、バター少々、牛乳適当、ベーコンを加え、さらに大量のワサビを搾り出し、かき混ぜながら、ゆっくりと温める。ゆでたパスタとあえて皿に盛り、カイワレを散らしてでき上がり。ワサビに弱い人には、試練かもしれない。(梶川伸)

編集長のずぼら料理 先達 巽屋 まゆみの店 山越

更新日時 2013/08/24


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