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編集長のズボラ料理(50) ブロッコリーのオイル煮

見た目は普通にゆでたものと変わらない

 四国八十八カ所を歩いていた時のことである。高知県室戸岬から西に進んで行くと、土佐くろしお鉄道の終点、奈半利(なはり)駅がある。そこにに道の駅があり、足休めをした。道の駅の横には、小さな魚屋。「つがにうどん」の張り紙が目についた。僕は「つがに」を知らない。これは食べてみなくては。「1つください」
 店の主人は言った。「20分ほど待ってくれんね」。これは手が込んでいるうどんと見た。ならば、待つ以外にない。その間に、主人と話をして、「つがに=ツガニ」は「モクズガニ」のことで、それをつぶしてだしにしていることを教えられた。これは期待できる。
 ただ、どうも主人がのんびりしている。うどんをゆでるとか、具を用意するとか、手をかけている様子がない。やがて、主人が言った。「うどんが届いた」
 実は、うどんはスーパーに注文していて、それを持ってきてくれたのだという。しこしこした手打ちうどんの夢は、はかなく消えた。そこからは早い。使い捨てのウレタンの丼にうどんを入れ、つぶれたツガニが残ったままのつゆをかけ、店の小エビを3匹乗せてできあがり。道の駅の前のベンチに座って、それを食べた。祭りの時、露店で食べているイメージである。ちょっとわびしい感じがしてきた。
 さて、味は? うまい! 実にうまい! うどんはスーパーのものだから、ごく普通である。しかし、ツガニのだしにこくがある。別にうどんは入れなくても、スープだけで良い、と思うほどだった。
 印象が強かったので、何人にもその話をした。「ツガニはモクズガニのことで」、と説明するのだが、ちょっと困ったことがあった。つい「モズクガニ」と言いそうになる。「モズク」が好きで、モクズが頭にこびりついているからだろう。
 似たような言葉のために、こんがらがってしまうことは、しばしばある。名古屋名物のウナギ料理「ひつまぶし」もちょっと危うい。「ひまつぶし」の言葉を先に覚えているから、つい口に出そうになるのだ。
 いったん間違って覚えると、なかなか元に戻らない。以前、テレビでそのことを取り上げていて、笑い転げたことがある。おばあちゃんが「ブロッコリー」を、「ブッコロリー」と覚えているので、それを正しい「ブロッコリー」に直すというものだった。
 番組の人が「ブロッコリー」と教え、そう言わせようとする。おばあちゃんは指示通りに話そうとする。ところが口から出る言葉は「ブッコロリー」。それを何度も繰り返す。「ぶっ殺す」「ぶったまげる」など、言葉を強調するものとして「ぶっ」が使われることがあるので、「ブッコロリー」と信じ込んでいたに違いない。
 僕は昔、野菜が好きではなかったので、きちんと名前を覚えなかった。ブロッコリーもそうで、カリフラワーとどっちがどっちか区別がつかない時期があった。だから、「緑の方」とか「白い方」と言っていた。
 今回は緑の方を使う。豊中市のミシュラン2つ星の「桜会」を取材して時、大根をオイルにつけて蒸す、という料理を聞いた。そのことを友人に話した時に教えてもらった。ブロッコリーを適当に切って、サラダオイルをまぶして、しばらくなじませてから、軽い塩を入れてゆでる。それだけ。ゆでる前にサラダオイルをつけただけである。
 では、普通にゆでたものとどう違うのか? 単独で食べると、よく分からない。オイルなしとオイルありを別々にゆでて食べ比べてみると分かる。オイル和えの方が、茎の部分は味が濃いような気がする。ブロッコリーとブッコロリーほどの差ではあるが。(梶川伸)

編集長のズボラ料理

更新日時 2013/08/15


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