編集長のズボラ料理(43)葉ワサビのおひたし
ワサビには、実によくお世話になる。物足りないと思ったら、とりあえずワサビである。お茶漬けだって、ご飯の上にノリだけしか乗せていなくても、ワサビ加えれば、お茶漬けとして十分に胸を張れるのだ。ただし、これは「ワサビがある時~」の話である。
「ワサビがない時~」は、実にワサビしい。いや、わびしい。僕はすしが好きだから、時々スーパーで握りずしを調達する。ところ、ワサビ抜きを手にしてしまったことがある。子ども向けのものを、確認せずに買ってしまったのだ。
このショックは大きい。自宅で食べるなら、冷蔵庫のワサビを出せば良い。しかし、出先だったら、取り返しがつかない。1つめのすしをかんだ瞬間に、ワサビのついていない空虚感に襲われた。ワサビを買いに行くことも頭をよぎるが、その気力さえ喪失している。やむなく、自己嫌悪に陥りながら、食べ続けた。そんな時に限って、少し多めの10貫入りを買っていた。
僕の人生の中で、いつごろから、ワサビを口にしているのだろうか? 子どものころ、すしは当然ワサビ抜きだった。だが、ワサビの思い出はある。おやじが東京に出張すると、静岡のワサビ漬けをよく土産に持って帰ったのだ。もちろん、主として食べるのはおふくろだったが、僕も小さいころから食べているはずだ。
ワサビとの関係は深かったが、社会に出て驚いたことがある。ある店で、刺し身のマグロにワサビを少し乗せ、それからしょうゆをつけて食べている人を見た。何とおしゃれな食べ方なのだろう。
我が家では、しょうゆにワサビを溶き、それに刺し身をつけて食べていた。それが当たり前だと思っていた。何と、ださい食べ方なのだったのだろう。それ以来、上品側にシフトした。下手をすると、ワサビを落としてしまうので、外でのパフォーマンスは家で訓練してからである。「しょうゆがワサビで濁っていないでしょう」と、周りを見ながら食べるのだ。しょうもな。
今回はワサビでも、菜を使う。葉ワサビは初夏から市場に出る。ほんの軽くゆでる。白だしと、みりんを混ぜ、細切りのコンブ、ユズの皮の細切りを入れ、これに葉ワサビをしばらく漬けておく。家にはサンショウの実が冷凍してあるので、それも入れる。錬りワサビを入れても良い。この場合、しょうゆが濁っても良いのだ。(梶川伸)
更新日時 2013/06/01