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編集長のズボラ料理(38) 桜コンニャク

白いコンニャクを使った方が見た目が良いかも

 春は桜を見なければならない。どうも、そんな雰囲気が日本中にまん延している。実は僕も、年をとるに従って、その思いが強くなってきた。
 僕の大学時代の遊び仲間など強迫観念にとらわれ、桜の時期になると夫婦で車に乗って、連日のように花見のはしごをする。夫婦2人の生活で、すでに悠々自適を決め込んでいるから、それも良い。「願わくは花のもとにて春死なむ その如月(きさらぎ)の望月のころ」と詠んだのは西行。友人夫婦も数をこなすから、疲れ果てて桜のもとで人生の桜散るなど、ありうるかもしれない。
 日本人の桜好きは、新聞記者にも影響を及ぼす。新聞には桜だよりが載るし、桜の開花がニュースになるからだ。
 僕の大先輩で、桜にまるわるエピソードが語り継がれる記者がいる。和歌山で勤務している時のことだ。早咲きの桜で有名な紀三井寺が舞台である。大先輩はその桜の開花を、特ダネで記事にしたいと考えた。では、どうしたか? 
 他社の記者が油断をしているうちに、早く咲かせてしまおうと策をめぐらせた。桜の下で七輪に炭を入れ、連日燃やして桜の木を暖め、春がきたと勘違いさせる作戦を実行した。そのかいあって、先輩は特ダネをものにした。それだけではない。功績が認められて、やがて編集局長にまでなり、記者人生は大きく花開いた。
 「ほんまかいな?」と思うかもしれないが、局長になったのは事実である。ただ、前段の七輪の話は、怪しい。新聞の世界では「飛ばし記事」だとか、「まゆつば記事」だとか、そんな業界用語がある。いや、この記事自体がそれらに当たるかも。ただ、桜、特にソメイヨシノにはあやしい美しさがあるので、桜がもたらした幻想だと思って、お許しを。
 花見には酒がつきもの。酒には、さかなが必要。できれば、桜にちなんだものが良い。そこで無理やり咲かせて、いや考えたのが桜コンニャクだ。
 桜の葉の塩漬けを用意する。桜餅を包んでいる葉である。通常は見かけないが、桜の時期になると現れる。スーパーになければ、百貨店で探すとある。コンニャクを薄く切り、だしと薄口しょうゆ、甘みで煮る。コンニャクをさまし、2枚の間に桜の葉をはさむだけ。要は味よりも、季節感である。(梶川伸)

編集長のズボラ料理

更新日時 2013/02/19


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