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編集長のズボラ料理(28)焼きシイタケの寒天寄せ

寒天に閉じ込めるものは、色合いを考えると良い

 僕も親父も転勤族で、人生のほとんどはアパート暮らしである。若いころは、「デラシネ(根なし草)」などと言って、カッコをつけていた。
 年をとっても賃貸暮らしが続いている。今のわが家は、団地の開発が始まったばかりのころに入居した。東側には建物はなかった。「ベランダに出ると、朝日が山から昇るのが見える。こんな、ええとこはない」。これが、僕の公式見解だった。
 3年ほど前、道路をはさんですぐ東側に、巨大なスーパーができた。いま、朝日はスーパーから昇る。これには困った。山からの日の出だからこそ、相手を納得させられた。公式見解の変更に迫られているのだが、なかなか思いつかない。それも当然である。金がないから家が買えない。それが本当の理由だからだ。
 1度だけ、戸建ての家に住んだことがある。とは言っても、持ち家ではない。毎日新聞には通信部制度というものがある。ある地区に常駐して、取材をする。住む家は会社が提供する。
 僕は富田林通信部で仕事をした。庭にレンガを積んでバーベキューの設備を作り、取材先の人とよくバーベキュー大会をした。農家の人がいたり、マスの養殖をしていたりで、食材には困らなかった。その中に、シイタケがあった。それ以来、焼きシイタケは大好物となった。
 友人がポルトガルの女性と結婚し、わが家に来たことがある。日本の食べ物を教えようと、5品を作って勧めた。1番喜んだのは、大阪の居酒屋では定番のどて焼きだった。「コレハ、タベラレナイ」と言ったは、焼きシイタケの寒天寄せである。念のため、僕がポルトガル語を話せるわけではなく、夫の和訳である。
 富田林から引きずっていた味を否定された腹いせに、みなさんに紹介する。シイタケは笠の部分を網に乗せ、ガスで焼き、やや細かめに切っておく。寒天の粉を買ってきて、和風だしで溶いて火にかける。僕は専用の容器がないので、平たい弁当箱の内側にラップを張り、寒天の熱がさめてからを流し込む。シイタケ、オオバやかんきつ類の皮の千切りも入れ、冷蔵庫で冷やす。ラップを引っ張って中身を取り出し、適当に切って、ポン酢で食べる。これがポルトガル人の嫌いな食べ物である。(梶川伸)

編集長のズボラ料理

更新日時 2012/04/16


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