編集長のズボラ料理⑰ 冷凍うどんのネギ・ショウガあえ
高松に住んで讃岐うどんを食べまくっていたころ、地元の雑誌に「恐るべきさぬきうどん」が連載されていた。簡単に言えば、うどん屋の紹介である。しかし、「よう、こんな店を見つけてきたなあ」とうなるほど、穴場の店が多かった。
その編集長に取材方法を聞いた。麺通団(めんつうだん)と名づけた好き者たちが店を探し、取材しているという。ムラムラと対抗意識がわいてきた。僕も栄養失調状態になりながらも409軒を制覇した身(その時は、まだ300軒台ではあったが)、そんじょそこらのうどん通には負けるはずがない。団長に会いに行った。いわば、果たし合いである。
名刺を交換したとたん、参った。肩書に「麺聖」とあった。しかも、字が大きい。姓名の部分がうどんの1玉分なら、麺聖は2玉分もある。これだけで不覚にも、「ははー」と頭を深々と下げてしまった。聖を広辞苑でひけば「日のように天下の物事を知る人」なのである。
それでも、こちらには409軒の自負がある。訪ねた店の数で勝負をかけた。「700から750軒くらい」とサラリと言う。「ははー」である。
実は、「聖」には理由があった。本職は香川県の保健所の職員で、その名刺で食べ物屋に行けば、警戒される。そこで、遊び心も加味して、麺聖にしたそうだ。
「どんなうどんがおいしいのか」と尋ねた。「母親が作ってくれたような味かな」。まるで禅問答。答になっているような、なっていないような。しかし、聖の言うことなので納得した。「深いなあ」
高松を離れて5年ほどたったころ、かの編集長に電話をした。彼は大学教授になっていた。専門は「さぬきパスタ論」だという。参った。
香川県は、冷凍うどんも送り出している。代表格は「加ト吉」だが、僕は小豆島の小さな会社で取材したことがある。「麺にタピオカを加える」と聞いて驚いた。うどんは、深いのである。
その冷凍うどんを使う。ショウガをすり、一部はみじん切りにする。細いネギを細かい輪切りにする。それらを大さじ1杯のサラダ油に漬け、ほんの少し塩を加えて10分おく。冷凍うどん1つをゆで、水で冷やす。ネギ・ショウガ油をうどんの上に乗せ、かきまぜて食べる。こちらは、特に深いわけでもない。(梶川伸)
更新日時 2011/08/10